壱 ページ3
初めて会った時、あいつは兄貴の許嫁だった。でも兄貴は初夜を迎える前に、任務で死んじまった。忍びの世界ではよくあることだ。
本来なら既に宇髄の屋敷からは出ていかなければならないはずだが、あいつは忍としての腕も立ち、気立てのいい、器量のある女だったからか里長に認められそのまま宇髄の屋敷に滞在していた。
その時の俺は十歳になるかならないかだったからあまり覚えていないが、屋敷の庭、枝垂桜の根元に座って儚げに笑っていたのだけは覚えている。
あいつはきっと、俺のことを許嫁の弟だからと可愛がってくれたのだろう。それがわかっていたから、俺もあいつを姉貴と呼んでいた。
いつからだろう、あいつを姉として見られなくなったのは。
______________
「おーい!姉貴!!」
天元はいつもの所、枝垂桜の根元で寛ぐAを見つけて手を振った。書物に落とされていた長い睫毛がゆっくりと上がり、その琥珀の双眸が天元を捉える。
「天元」
「...っ...」
Aは美しい女だった。里一番と言っても過言ではない。流れるように肩にかかるしなやかな金茶の糸に、枝垂桜がよく似合っていて、天元は息を呑んだ。
最近そうだ。Aの姿を見ると、その甘い声を聞くと、胸が高鳴る。そのままその朱い唇を吸いたくなる。紅を塗っていないのにどうしてそんなに朱いのか不思議だった。
「さ、さっき須磨に渡してくれって預かったんだ」
「あ!金平糖!」
「たしか好きだったろ?」
「えぇ、ありがとう!後ですーちゃんにもお礼言わないとね」
須磨はまきを、雛鶴と共に天元の許嫁として宇髄の屋敷に来たくノ一である。宇髄の頭領筋は一夫多妻という風習に則り里長が相性などを考慮して三人の嫁が宛てがわれる。子供を産む道具として。
天元はその風習に疑問を持っていた。生命を消耗品の如く扱う忍の在り方に。父である里長はその典型で、壮絶な訓練の末生き残った弟さえもその考えに染まっていた。
「天元?どうしたの?」
「えっ...あぁ、なんでもない...っそろそろ戻ろう、もう暗くなる」
どうやら考え込んでいたらしい。突然顔を覗き込まれた天元はビクりと肩を震わせ仰け反った。無垢な琥珀が天元を射抜いている。思わぬ所で近くなった距離とAから薫るいい匂いが鼻をくすぐり、天元はくらりとした。
天元はAの手を取ると屋敷に向かって歩き出す。天元の紅く染まった頬は、夕日のおかげで誤魔化せたはずだと天元は短く息をついた。
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美貴(プロフ) - 早く続きが読みたくなりました。応援してます。頑張って下さい。 (2020年2月3日 22時) (レス) id: 90d314c778 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆友(プロフ) - 夏蜜柑さん» コメントありがとうございます!出来るだけ速く書こうと思ってますので、これからも応援お願いします!! (2020年1月26日 10時) (レス) id: 3d9f00433a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑 - このストーリー好きです\(//∇//)\)更新頑張ってください!応援してます (2020年1月26日 9時) (レス) id: 1f2db930a1 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆友(プロフ) - ルイさん» ありがとうございます!亀更新ですが頑張ります!! (2019年11月24日 13時) (レス) id: 3d9f00433a (このIDを非表示/違反報告)
ルイ - すごく面白いです。更新頑張ってください。 (2019年11月24日 12時) (レス) id: e495d80177 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆友 | 作成日時:2019年11月16日 15時