玖 ページ11
里は一時期大騒ぎになった。しかし、流石は仕事人達だ。対応が早かった。
天元の許嫁三人も心から祝福し、生まれてくる子に思いを馳せた。
一番難航すると思われた里長の説得も、世継ぎが出来るなら構わん、とあっさり許可が出て拍子抜けだ。
世継ぎ、という言葉には多少天元の眉が動いたが。
「んっ...っおぇ...っ」
Aの妊娠が分かってから二ヶ月程が経った。
本来なら悪阻は治まって来る頃らしいが、妊娠という現象は不思議なもので全く悪阻がない者もいれば、出産するまで悪阻が治まらない者もいるらしい。
産婆曰くAが腹で育てているのは一人ではないらしく、尚更重いようだ。
天元は弱々しく嘔吐くAの背をさすってやることしか出来ず、歯噛みする。
毎日のように吐いて痩せてしまったAの背は、幾分も小さく見えた。
少しして吐き気の落ち着いたAをうがいさせて布団に寝かせると、Aはふぅーっと息をついた。
額に滲む脂汗を拭ってやるとAは擽ったそうに笑うと天元の手を掴みそのまま自身の腹に導く。
「ちょっと膨らんでるのわかる?」
「...ほんとだ」
Aの腹は少しだけ膨らんでいた。多胎だと膨らみ方も大きいらしい。
いつもは薄い腹なので、触ったらすぐに分かる。
確かに子が成長してることにAは嬉しそうに笑うが、天元はなんだか心臓がきゅっと摘まれたように痛かった。
こんなに小さいのにAが苦しんでいる。では、大きくなったら?と。
子が出来たことは本心で嬉しい。天元が若いことは関係なしに。
だが、その子がAを奪って行ってしまうのではないかと、Aが、いなくなってしまうのではないかと。
天元は考えずにはいられないのだ。いっそ、それなら、と。
Aはそんな天元の考えは見透かしているようで、少し怒ったような、悲しいような表情で天元の頬を抓った。
「こら、何考えてるの?」
「Aが、苦しむくらいなら...いっそ...」
「やっぱりそんなこと考えてたのね...。でも天元」
Aは両手で天元の顔を挟むように包み引き寄せ、胸の上に置いた。
「私の心臓の音、聞こえるでしょう...貴方ならきっと、この子達の音も」
「...ああ」
「私は、大丈夫よ。絶対にこの子達を産んでみせる」
Aは天元の頭をあやすように撫で、天元は未だ拭えない不安をかき消すように、Aの背に手を回し口付けた。
Aはもう、立派な母親の顔をしていた。
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美貴(プロフ) - 早く続きが読みたくなりました。応援してます。頑張って下さい。 (2020年2月3日 22時) (レス) id: 90d314c778 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆友(プロフ) - 夏蜜柑さん» コメントありがとうございます!出来るだけ速く書こうと思ってますので、これからも応援お願いします!! (2020年1月26日 10時) (レス) id: 3d9f00433a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑 - このストーリー好きです\(//∇//)\)更新頑張ってください!応援してます (2020年1月26日 9時) (レス) id: 1f2db930a1 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆友(プロフ) - ルイさん» ありがとうございます!亀更新ですが頑張ります!! (2019年11月24日 13時) (レス) id: 3d9f00433a (このIDを非表示/違反報告)
ルイ - すごく面白いです。更新頑張ってください。 (2019年11月24日 12時) (レス) id: e495d80177 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆友 | 作成日時:2019年11月16日 15時