犬と月 (ページ20)

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月の13 ページ20

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岩本くんのマンションに着いて、お家に入る時には正直緊張した。
ここまで来ておいてなんだけど、やっぱり岩本くんの真意がわからない。
それに、ここまで付いてきてしまった自分のことも良くわからなかった。

……ジェシーのことを、何か言われるんじゃないかって心配する気持ちももちろんあったけど…

「お邪魔しまーす……」
「どーぞ。自由にしてて～」

部屋の中央に大きなクッションの布張りのソファ、明るいベージュの色があったかくって岩本くんぽい。
上着を脱いで、遠慮がちに腰を下ろす。

ちょっと食べてて、て出されたのはカロリー〇〇ト。

これなら、お菓子っぽいし栄養もあるでしょ、て笑って差し出される。
フルーツ味のほかにチョコ味もあるよ～て、さっきコンビニで買ってくれてたのはこれだったのかな。

身体づくりが仕事のひとつ、みたいな岩本くんは普段からヘルシー志向だから、きっと俺のことを考えてくれたんだろうと思った。

「あ、食べる前には手、洗えよ」
こういうところも岩本くんだ。

スタイリッシュだけど、取っ付きにくくない。居心地のいい部屋だった。

冷蔵庫を何度か開け閉めする音がして、
「おまたせ～。オレ一押しのフルーツジュレ。DVD観ようぜ」

どこのケーキ屋さんのだろう。
にこにこと満面の笑みで、トレイにキラキラしたフルーツジュレのカップを載せてきた岩本くんが、ソファの右隣に収まる。

俺は慌てて鞄を探って今日借りようとしたDVDを出して、岩本くんに手渡した。

「岩本くんちのテレビ、すごいすね」

おっきなテレビ。両端には縦長のスピーカー、これは迫力がありそうだ。

「まあね。音はかなりイイよ。この映画も俺一人で観たけど、音が良くて感動した」

それは少し前にアカデミーも獲ったミュージカル映画で。
恋愛ものだけど、切ない。
「もしかしたらそうだったかもしれない、人生みたいな映画」て風磨が言うから、いつか観ようと思っていた。

「映画モードにしてもいい？」

なんて聞くから、なんのことかと思ったら、部屋の照明が薄暗くなって、ディスクが静かに回り始めた。