犬と月 (ページ11)

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月の11 ページ11

…部屋を出てすぐ、猛烈に後悔する。
もっと軽い感じで言わなきゃ駄目だったんじゃないか。

岩本くんはどういう意味で「ジェシー」と言ったのだろう。
単に、昔から仲がいいから？いつもお菓子を食べるのを叱ってるから？

それとも、それとも…？
俺に、見た目で分かるような何かがあった…？

廊下を、Jrが数人走り過ぎていったけど、頭の中をぐるぐると色んな思いが駆け巡って、俺は端をノロノロと歩く。

「あー、ちょっと、髙地。ごめん、もっかいこっち来て！」

後ろから呼ぶ声がして、振り返ると部屋からひょこっと顔を出した岩本くんがおいでおいでしていた。

「あ……」

働かない頭のまま、大先輩が呼ぶ方に向かう。

「今日終わったら、よかったらそれ持って俺んちにこない？一緒に観よう」

「え……」

「じゃ、あとで。俺先に終わったら声かけるわ」
にこ、と笑う岩本くん。

何を言われてるのだろう。頭にもやがかかったように、はい、もいいえも言えないまま。

なし崩しに、俺は岩本くんとしたこともない約束をしていた。