ギャップ萌え ページ32
それが三十分くらい前の事。
「たーいしょ。心配しててくれとは言ったが、そこまで気負われると申し訳なくなっちまうんだが…」
『ごめぇん…』
テーブルに伏せて座ってかれこれ二十分。
向かい側で薬研くんが茶を啜っている。
『大丈夫…だよね』
大体お昼頃には戻る、と聞かされている。
出たのは八時半、で今は九時少し過ぎくらい。
テレビをつけてぼーっと眺める薬研くんにも気を遣わせてしまった。
洗濯も掃除も手をつけてない。
洗濯はそこまで溜まってないし別にいいかと思い始めるし、掃除…も今日はいいや。
やる気が吸い取られる、机と一体化してしまうーなんてグダグダしてると薬研くんが“あ”と声を上げた。
『どうかした?』
「あ、いや…なんでもない」
思わず出してしまったんだろう、口を抑えあははと誤魔化す。
なんだろうと思って視線が向けられていたであろう先を見てみれば、グルメ番組を流すテレビ。
丁度オムライスの特集だったらしい。
多くの店舗が挙げられている中、MCやゲストのタレントさんが美味しそうに食べるのをぼんやりと眺める。
ん、もしかして。
『オムライス食べたい?』
「へっ?!あ、いや…」
ふよふよと藤色の瞳をさまよわせ、ほんのりと頬を桃色に染める。
五虎退の前だといいお兄ちゃんって感じの薬研くんだけど、こうして二人になってみるとなんだか甘え下手の弟って感じがするよな。
ギャップ萌えって奴なのか、可愛いなぁなんて思ってしまう。
「たっ…食べたい…というか…」
『うん?』
普段のはきはきとした態度とは打って変わって、もごもごと篭った声で話す。
なかなか見られないレアな姿だなぁと嬉しく思いながら言葉を待った。
「その…作れるように…なれたら…なぁ…なんて…」
『…オムライス?』
作れるようにって…作れるじゃん。美味しかったよ?
そう言うと、むっとする顔を向けられた。
え、何で?!
「大将、アレで“作れる”なんて言わんでくれ!ほぼほぼ暗黒物質だったぞ、と言うかよく食ったよな…」
『美味しかったけどなぁ』
「世辞どーも」
ひらひらと片手を振り、テレビに目を向けてしまう。
むすっとした顔は治らない。
「…もっと…ちゃんとしたのを食ってもらいたい」
微かに聞こえた薬研くんのやりたいこと。
『…じゃあ、一緒にやる?』
「やっ…やる!!」
恐る恐る聞いてみると勢いよく振り向かれた。
元気よく返事をしてくれた彼は、俺の不安を少し吸い取ってくれたように感じられた。
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彩香(プロフ) - ゆきむらさん» 初めまして、コメントありがとうございます。そう言っていただけるととても嬉しいですありがとうございます!!お応えできるよう、頑張ります! (2019年5月31日 22時) (レス) id: ac0ca94cff (このIDを非表示/違反報告)
ゆきむら - 初めまして。作者様の小説、最初から一気読みさせて頂きました。とても面白かったです!これからも自分のペースで更新なさって下さいね!応援しています! (2019年5月30日 3時) (レス) id: 98604c15ab (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - …さん» 返信遅くなりすみません、コメントありがとうございます。中々更新できていませんが、お応えできるよう頑張ります。ありがとうございます!! (2019年5月28日 12時) (レス) id: c14942e9c6 (このIDを非表示/違反報告)
… - 此処まで一気に読みました、更新応援しています。 (2019年5月25日 14時) (携帯から) (レス) id: 46e1741f78 (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - ねむるさん» 返信遅くなりすみません!応援していただける分、出来る限り更新できるよう努力します!ありがとうございます! (2018年5月27日 22時) (レス) id: c14942e9c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彩香 x他1人 | 作成日時:2017年7月16日 11時