検索窓
今日:17 hit、昨日:1 hit、合計:142,265 hit

笑顔の裏に ページ28

五虎退視点

温かなお風呂の空気を纏ったまま脱衣場の戸の前に腰を下ろした。

声をかけた兄さんは「もっとゆっくりしても良かったのに」と眉を寄せて笑った。

最近お馴染みとなった会話をひとつふたつして、兄さんも部屋の中へ入る。

その背中を見送り、ふと廊下に目を向けた。

ずっと先まで続く真っ暗な廊下。
ほんのりと聞こえるお風呂の音の他に聞こえる音がない。
まさしく静寂。
それがとても恐ろしく思う。
こればかりはいつになっても慣れなかった。

温まったはずの体が、足の先からすっと冷えていく。
膝を抱え、足の先を自分の手で握り温める。

あの闇を見ないように視線を落としたまま、僕の周りを囲う虎さんと戯れる。

少しした頃か、がたっと背中にあたる戸が引かれる。
はっとし、背を離すと控えめに開けられたそれから顔を覗かせたのは主様。

「主様…?」

『あ、いた。そこに居たら冷えちゃうだろ』

こっちおいでと脱衣場の中へ招かれる。

「随分早い…ですね。大丈夫ですか?」

明るさに一瞬怯みつつも、主様の表情が冴えないことが目に付く。
のぼせた…という訳でもなさそうだけれど。

『うーん…まあ具合悪いとかじゃないから安心しろ。…お、ちゃんと髪も乾いてる。偉い偉い』

「…主様?」

安心しろと言った主様は、また無理して笑っているように見えた。
話を逸らすように僕の頭を撫でる。

「どうされたんですか」

『んー?別に何も無いよ』

詮索しようとも笑は張りついたまま剥がれない。
何も無い、何も無いとまるでおまじないのようにいつも言う。

彼の笑顔の裏側には、どれほどの泣き顔が隠れているのだろうか。

どれだけ不安でも、どれだけ辛くても、彼は笑って“何でもない”、“大丈夫”と自分に言い聞かせる。



「…また嘘つくんですか…」


彼の顔が、困ったと言うかのように歪んだ。

眉を寄せ、瞳が揺れる。
口元に引きつった笑だけを残して、ぼろぼろと表情が崩れた。

あなたがいるから→←カッコイイひと



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (204 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
489人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

彩香(プロフ) - ゆきむらさん» 初めまして、コメントありがとうございます。そう言っていただけるととても嬉しいですありがとうございます!!お応えできるよう、頑張ります! (2019年5月31日 22時) (レス) id: ac0ca94cff (このIDを非表示/違反報告)
ゆきむら - 初めまして。作者様の小説、最初から一気読みさせて頂きました。とても面白かったです!これからも自分のペースで更新なさって下さいね!応援しています! (2019年5月30日 3時) (レス) id: 98604c15ab (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - …さん» 返信遅くなりすみません、コメントありがとうございます。中々更新できていませんが、お応えできるよう頑張ります。ありがとうございます!! (2019年5月28日 12時) (レス) id: c14942e9c6 (このIDを非表示/違反報告)
- 此処まで一気に読みました、更新応援しています。 (2019年5月25日 14時) (携帯から) (レス) id: 46e1741f78 (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - ねむるさん» 返信遅くなりすみません!応援していただける分、出来る限り更新できるよう努力します!ありがとうございます! (2018年5月27日 22時) (レス) id: c14942e9c6 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:彩香 x他1人 | 作成日時:2017年7月16日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。