臆病者 ページ10
だから知りたいと思った。彼について。
聞いてみてもいいだろうか。
俺と彼の間に空いた距離を詰めてみてもいいだろうか。
もう少し近寄ってもいいだろうか。
拒否されないだろうか。
黙り込んだ俺を察したのか、薬研が少しばかり破顔して独り言のように呟いた。
「聞いてみたらいいんじゃないか？」
「…嫌がられないだろうか」
自信が無いんだ。
今の俺が、彼の側によっていいものか。
こんなにも汚れた俺を、彼が受け入れてくれるか。
彼を、人間を、再び受け入れられるか。
次から次へと溢れてくる不安は、黒い渦となり俺の中を染め上げる。
「さてな。俺っちもまだわからねぇし、そんなもん言ってみなきゃわからねぇ。当たって砕けろってやつだ。……鶴丸の旦那は少し臆病になったな」
「は？」
「前のあんたなら誰彼構わず驚かせに行って、怒られてそれでも次って臆さない人だと思っていたんだが」
挑発的な言い方が、今はすとんと腹の中へと落ちていった。
「…そう…だな…。臆病か…」
繰り返す俺に、薬研は焦ったようで隣に座る俺の顔をずいっとのぞき込んだ。
「まてまて、俺はそんなつもりで言ったわけじゃないぜ？」
「っふふ…知ってるさ。ただ、…確かにと思っただけだ」
その慌てた姿を少しばかり可笑しく思った。
確かにそうだ。俺は臆病になった。
昔、多くの仲間を嬉々として折った人間が憎くて斬り捨てたことがあった。
言い訳をするなれば、決して意図的ではなかったのだ。
目の前で旧友が意味もなく折られた姿を見て、頭に血が上った。
抑えていたはずのものが一気にあふれでた感覚。
俺の身体は一瞬で怒りに支配された。
何が起きたのか全くわからなかった。
次の瞬間には、目の前に伏せピクリともしない主がいた。
覚えていない、自分が何をしたのか。
だが、俺の手が、身体(刀)がしっかりと覚えているんだ。
その時の肉を切り裂く感覚と、噴き出る深紅の血。
歴史修正主義者を斬るのとは訳が違う。
生きた人間の生暖かく、ツンと鼻を刺す鉄の臭い。手に残るあの感覚がいつまでも離れない。
また起こるかもしれない。
怒りに任せ、いつか仲間すらも手に掛けてしまうのではないかと、そんな恐怖から仲間にすら顔を向けられなくなった。
怖い。
怖い。
人が怖い。
仲間が怖い。
自分が怖い。
そう思うようになって、何も出来なくなって、何時しか何十年と月日が経った。
ふっと自虐的な笑がこぼれた。
「…鶴丸の旦那…」
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彩香(プロフ) - こすさん» お恥ずかしいですすみません。すぐに修正させていただきます！ (2017年7月21日 13時) (
レス) id: 5d501a6648 (このIDを非表示/違反報告)
こす - 真名＝まな だと思う (2017年7月18日 20時) (レス) id: 504739afed (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - 晋陽さん» 返信、大変遅くなり申し訳ございません！コメントありがとうございます！頑張ります！ (2017年5月2日 12時) (レス) id: 5d501a6648 (このIDを非表示/違反報告)
晋陽 - 続きがとっても気になります!がんばってください！ (2017年4月30日 17時) (レス) id: 698e01f38a (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - まーさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけると本当に嬉しい限りです！透明ララバイの方は更新が途切れてすみません。少しずつではありますが更新していきます。ありがとうございます頑張ります！ (2017年2月26日 20時) (レス) id: 5d501a6648 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：彩香 x他1人 | 作成日時：2017年2月15日 21時
