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蘇る記憶 ページ15

太陽も真上を通り過ぎた頃。
ひと通りの仕事も終わり、五虎退が強請って主殿と庭で遊んでいる。
その様子を縁側で薬研とともに見守っていた。

主殿の腕にぶら下がったり、簡易的な追いかけっこなんてじゃれ合ったりしている。
きゃっきゃと明るい声が部屋一帯に響く。

「楽しそうだな」

「…そうだな」

ぼんやりと、はしゃく彼らを眺めている。
こんな明るい光景を見ていると、不意に昔を忘れてしまいそうになる。

その度に、頭をよぎる赤黒い記憶。

この空気に慣れつつあるものの、昔の記憶が消えたわけじゃない。
靄のような黒い何かがずっと付き纏う。
無意識に震える肩を、隣に勘づかれないようにそっと己の腕で抱きしめた。

こうして幸せな彼らを見ているのに、自分は怖くて仕方がなかった。

大丈夫。
大丈夫。
もう怖いものは無い。
彼がいる。
仲間もいる。
だから大丈夫。


自分に暗示をかけるように、心の中で何度も何度も繰り返した。


「っ…るの…だ…鶴丸の旦那!」

突然声を荒らげた薬研に体を跳ねさせて驚いた。

「なっなんだ?!どうした?」

「…いや、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」

顔をのぞき込む彼の表情には心配の色が見える。
藤色の瞳にはどこか怯えた顔の俺が映る。

「ぃ…いや…なんでもない。なんでもないんだ」

無理矢理口角を上げ笑う振りをする。
今更こんな話をしたところで空気を壊してしまうからな。

「そうは見えないが」

「いや、いいんだ本当に。大丈夫」

何度言おうと疑惑の目を止めない薬研。
重たい空気の中、どう話を逸らそうか考えていると、へろへろになった主殿が俺の横へ手をついた。

『あ゛ー、疲れた…。ちょ、休憩…』

「ぼ、僕お茶持ってきますね」

崩れるように縁側へ倒れ込む主殿の横を通って、五虎退は真っ直ぐ厨の方へと消えた。


「なんだ、審神者の旦那。もうお疲れか?」

『おいおい勘弁してくれ。もう歳だよ、人間二十超えたら動かねぇって』

床と一体化している主殿を薬研がからかうと、消えそうな声が帰ってくる。

ちらりと薬研の方へ目をやるとばっちりと合った。

一瞬怯んだ俺を呆れた顔で一瞥し、すぐに主殿のほうへと戻した。

聞こえる声→←信用しません



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彩香(プロフ) - こすさん» お恥ずかしいですすみません。すぐに修正させていただきます! (2017年7月21日 13時) (レス) id: 5d501a6648 (このIDを非表示/違反報告)
こす - 真名=まな  だと思う (2017年7月18日 20時) (レス) id: 504739afed (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - 晋陽さん» 返信、大変遅くなり申し訳ございません!コメントありがとうございます!頑張ります! (2017年5月2日 12時) (レス) id: 5d501a6648 (このIDを非表示/違反報告)
晋陽 - 続きがとっても気になります!がんばってください! (2017年4月30日 17時) (レス) id: 698e01f38a (このIDを非表示/違反報告)
彩香(プロフ) - まーさん» コメントありがとうございます。そう言っていただけると本当に嬉しい限りです!透明ララバイの方は更新が途切れてすみません。少しずつではありますが更新していきます。ありがとうございます頑張ります! (2017年2月26日 20時) (レス) id: 5d501a6648 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:彩香 x他1人 | 作成日時:2017年2月15日 21時

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