紅一点/黄緑/曖昧/確信犯 ページ9
アイドルなのに、
苦手なことはなんですかと聞かれたら
開口一番にダンスと答える。
そのくらい苦手なのだ。フリ入れが。
『A、そろそろ休憩』
「やだ、覚えらんないもん、まだやる」
『休憩しなきゃ頭回んないから』
頭上から降ってきた声にいらっとした。
宏太がそういうのもわかってる、
自分が疲れているのも。だけど、
『大丈夫、ほら行くよ』
「っえ、ちょ、どこに」
『ここに座ってください』
と連れてこられたのは
スタジオの屋上、のベンチ。
何年もここでフリ入れしてるのに
こんなところ知らなかった。
ふにゃ、と笑った宏太が隣に腰かけて、
ぽんぽん、と頭を撫でられる。
後輩なのか、
妹なのか。
宏太にとってAはどう見えているのかわからない。
「何で、何で、Aに構うの」
今までずっと
お兄ちゃんみたいな感じに思っていたけど、
大人になってから、
あぁ、宏太のこと好きだなって思うようになった。
でもそれはきっとAだけ。
『どうだったら良いの？』
「……」
『ほら、これ飲んで落ち着けって』
渡してくれるココアも
だいぶ前に買ったんだろう、
ポケットの温もりを感じた。
『俺が我が儘だから、かな』
「……」
『Aが可愛くてしょうがないから』
可愛いから、なんて理由、誰にでも言えるし、
はっきりしない宏太の態度に考えて悩むことはいっぱいある。
『全然？腑に落ちないって顔してる』
ほっぺをむにっとつまみながらそう言う彼。
わかってるくせに
意地悪ばっか言ってくるのは全部計算なんだろう。
「はっきり言って」
『言ったじゃん、可愛いからって』
「…可愛いからなんて理由になんなちもん」
『A？』
「なに」
『この感じ、楽しくね？』
「………」
『え、宏太私のことどう思ってるの！？え！？っていうこの感じ？』
ふっと笑いながら言う彼は完全に確信犯。
フリ覚えられないどうしよう
なんて悩みは忘れているくらいドキドキしていて。
「……こうたきらぃ」
『ん？、』
「宏太嫌い」
『ふふ、そうですか。Aちゃん嘘つきだ』
頭を撫でて先に戻る彼の後ろ姿を
ぼーっと見つめることしか出来ない。
宏太のせいでいろんな感情が渋滞してるよ、
どうしてくれるの。
〆
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作者名：ヒロイン症候群 | 作成日時：2021年5月12日 15時
