『はじめまして、さようなら』/水 ページ20
「ゲームセット、リーダー」
「了解、ハンター解散」
アジトも転々とし、それぞれ、名を持たない。コードネームすらも無い。あるとすればこの男の話し掛けた先に、リーダーがいることくらいだ。その一部始終を見ていた。あまりにも近くで銃撃戦を始めるものだから、銃弾が２つほど当たりかけてひやひやした。
『おーい、お兄さん』
次のターゲットはここだと推定してわざわざ潜入捜査までしに来たのだ。見えている限り、ここには私の他にも数名の潜伏者がいた。今はもう音がしないが。恐らく、ワナだったわけだ。
だが私はターゲットではないようで、聞こえているのに聞こえていないフリをしている彼に聞こえるようにもう一度、
『ねえ、中島裕翔くん』
「……どこでその名を」
彼にしか聞こえないように。驚く、というよりは、恐らく久々に耳にしたであろう本名に、振り向きもせず、表情ひとつ変えずに溢した声は、よく耳を澄まさないと聞こえないくらい小さく、涙で震えている。やはり、
『初めまして、』
どこにいるのか場所が把握できていないその拳銃はあと一発だけ、弾が残っているはず。無駄な銃跡を残すわけにはいかない彼はトリガーをも引けずに焦っている。
『ばーん、』
私がこめかみに当てた拳銃に驚く様子もなく無感情のフリをする。私を探していたその腕を下ろし、今度は動き出そうとしているのが見えて
「っ、」
『無理だよ、君は私には勝てない。』
一発目に仕込んでいたゴム弾は右足の付け根に直撃した。まぁこれくらいならきっと私の知る彼なら２週間で治せるだろう、というところ。
もう一度耳元で引いたトリガーはその空間を真っ白に消し去った。隙はない。が、潜伏していたからには逃げ道を用意しておいたことが役に立つ。
さようなら、殺し屋さん。
〆
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作者名：ヒロイン症候群 | 作成日時：2021年5月12日 15時
