３ヶ月/青/奥の手 ページ14
出会う前に思っていたこと。
たとえば軽い〜とか、
静かなのにうるさそう〜とか、
若干チャラチャラしてるんだよな〜、なんてこと。
どこで手に入れた知識なのかもう覚えてないんだけど、
ご多聞に漏れずわたしもそういう世界に住んでいて、
伊野尾くんはそういう人だって教わってきた。
アイドルだし。
熱愛報道、もそこそこ多かったから。
だけど世界って、一瞬にしてひっくり返るもので。
報道だけで、ただの友人だったりもして、
あの夜、酔っぱらった彼にまるで長年の友人みたいに
「あー、Aちゃんだー！」
なんて名前を呼ばれてから、わたしの世界はすぐにピンク色になった。
伊野尾くんが、伊野ちゃんになり、
慧くんになり、けいくんになるのは
本当に、あっという間だった。
「あ、A、また1人でなんか考えてる」
頭の回転の早い彼に見透かされないように
なんとなく考えてしまう癖は、
呼び方が変わっても変わることがなかった。
「考えてる考えてる。わたしは考える葦である」
『え、古くない？』
「ひどいな〜わたしは考えてるんだよ」
『たとえばー？』
「夜ご飯の献立とか、友達との旅行、とか」
『俺との未来、は考えてくれないの？』
そう言いながらぎゅーっと、後ろからハグしてくれる。
華奢に見えるのに、力強くて毎回ビックリする。
会うたびに、隙を増やして入り込んでくるのが、
けいくんな気がする。
『もう伊野尾タイムにしてほしいんですけどね』
「あ、ごめんね。けいくんのこと考えてたんだけどね」
『え、なに、うれしいじゃーん？』
そう言いながら、
ふふふって笑う声が聞こえて、
こっちまでニコニコになる。
もう出会って3ヶ月だけど、
あんまりにきれいなお顔だから無理！！
って無茶を言ったら、
わかった、了解了解〜！！
って言って、抱きしめる時は後ろからハグしてくれる。
ふふ、好きだなあ、なんて言ってはあげないけど。
伊野ちゃん調子乗るからな〜
と八乙女さんが教えてくれたのを思い出していた。
〆
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作者名：ヒロイン症候群 | 作成日時：2021年5月12日 15時
