もしも君のための世界なら (ページ13)

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アイドル彼氏/桃/てるカミページ13

8:38pm 手に持っていたスマホを落とした。

予定されていた友達とのランチ、
一緒に見るはずだった映画、
親友と二人で行くつもりだった旅行、
舞台前だというのに祝ってくれるはずだったわたしの誕生日。

そして、割れたスマホ。

何にぶつけたらいいのかわからない怒りを抑えるように、楽しみにしていたものが。

「ただいま」

喧嘩したときこそイライラしてるときこそ、
いつものように、
何もなかったように、
同棲を始めたときにそう約束した。

でも、わたしは何を言った？
なんで？どうして？
初めての舞台、初めての主役、
初めてだらけで緊張して、
ゲームもしなくなって、
夜も眠れなくなっちゃった彼に、
わたしは何を言ったの？

『ごめんねっ、Aごめんね』

どうして彼が泣いているの？
辛いから泣くような彼じゃないのに、
なんで、どうして、
わたしのために泣いているの？
ねぇ、数分前のわたし、
何を言った？
何を彼にぶつけたの？

『……Aのせいじゃないから、ね？』
「うん」
『だから……、ほら、泣かないで？ブスだよ？』

あぁそうか、
彼は、わたしのために、
わたしが泣いてるから
一緒になって泣いてくれたのか。

それで、自分の涙を隠すんだ。
わからなかったピースがひとつひとつ、
くっついて、繋がっていく。

「ゆうりくん、」
『……ん？』
「泣いていいんだよ」

辛いときはさ、
辛いって、言わなきゃゆうりくん。

〆