あなたと私、ときどきあの子。【やすば】 (ページ7)

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笑っていい恋なんてあるはずないだろ。ページ7

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甘酸っぱいはちみつレモンの息を吐きながら、不可能だとわかっているのに手の内のゴミを投げ入れようと精一杯の力を振り絞った彼女に目眩がした。

空気抵抗によってハラりと落ちたそれを眺める彼女はどんな気持ちでそこに座っているのか。

想像するのは赤子の手をひねるより容易く残酷だ。

彼女の代わりにそのゴミを拾って、ゴミ箱に落とす。

俯いた頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃと撫で回せばやっと口を開いて出た言葉は｢笑ってもいい｣だなんて。

笑えるわけがないと笑えば笑ってるじゃないかと笑った彼女の頭をさらに撫で回した。

心配しなくてもお前の恋は十分綺麗だ。

｢ちょっと待って、教科書詰めるから｣

｢ちゃんと教科書持って帰ってんの？｣

｢もうすぐテストやろ？｣

｢俺ら校内選考当たったから付属大決まってるし｣

｢私らもやけど、卒業できひんかったら元も子もないやん笑｣

｢まあ俺は天才やからな｣

｢ほんま、校内選考当たってんの意外すぎて聴き逃しかけた｣

｢あ？｣

くだらない話をして笑って、最後に数Ⅲの教科書をリュックにつめた時。

｢あ、お前が遅いから！｣

｢やっば、ゲリラ豪雨ってやつやな｣

｢どうしてくれんねん｣

｢とりあえず靴箱行こ｣

急に降ってきた雨はバシャバシャと音を立てて乾いたコンクリートを濡らす。

とりあえず靴を履き替えても、空は泣き止むどころかゴロゴロと唸り始めた。

｢おい、｣

｢あかんなぁ、｣

｢俺家まあまあ遠いねんけど？｣

ため息を吐いたすばるの手を掴んで一歩踏み出す。

｢え？｣

｢すばる！走れ！！！｣

｢ちょ！おい！！！｣

｢ふははは！笑｣

私が一人で暮らすアパートはここからたったの5分。

冷たい雨に打たれ、笑いながら彼の暖かい手を引っ張った。

途中で雨が止んだかと思えばバサりと頭に掛けられたのは黒い学ラン。

横を一緒に走るすばるはそれ被っとけ、と笑うとグッと私を歩道側に引き寄せる。

横を通った車は水たまりを踏んで私達に水しぶきをかけるけど、そんなことどうでもよかった。

ただ、雨の匂いと、彼の学ランから香るタバコの匂いを強く感じた。

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