あなたと私、ときどきあの子。【やすば】 (ページ50)

今日:25 hit、昨日:4 hit、合計:77,028 hit

転機ページ50

∴

亮が私を探して引っ張り出そうとしてくれるのは心の片隅で予想していた。

仲間思いで寂しがり屋だからきっと私が去るのを嫌がるだろうと。

それでも最後には本人の意見を聞いてそれに従う優しい男だ。

彼の目をしっかり見つめる。

｢ほんまに、いいん｣

｢うん｣

｢たぶん断られへん状況やったやろ｣

｢多少はな笑｣

｢ちゃんと聞かせて｣

彼はいつも私のスペースを作ってくれた。

それは空間的な意味以上にもっと心の奥底の精神的な面で。

私が緊張すれば無駄に励ますことなく背中を叩いてくれたり、みんなの話を聞いていればお前はなんかないんと意見を求めてくれた。

それは今も同じ、彼の不器用で暖かい一面なのだ。

彼のおかげでまた私の心に良い意味での余白ができる。

そう言えば事が進んでから、自分の口で思いを語るのは初めてだったと今更ながらに思った。

｢私はすばるのとこにいく｣

｢、うん｣

｢最初はなんでって、嫌やって思ったけど今はもう迷ってない｣

｢うん｣

｢亮、ありがとう。｣

｢俺ほんまに俺らのバンド好きやってん。｣

眉を下げてへにゃりと笑った彼は悔しそうに寂しそうに頭を掻く。

痛いほど滲みる素直な言葉と表情はきっとこれから先忘れられないだろう。

章大が私を傷つけたように私も亮を傷つけたのだ。

誰もが心に傷を負った。

それでも人は前を向く。

｢ほんまに、ほんまに好きやってん｣

｢うん｣

｢それは、Aもやんな？｣

｢うん、私も大好きやった。今でも大好き｣

｢それだけ聞きたかってん。俺もありがとう。次はライバルやから。｣

｢わかった。全力で。｣

｢頑張ってな｣

｢亮も頑張って｣

私の腕から大切にしていたものが離れていく。

私を守ってくれる亮はもうそばにいない。

でも私には、守ってくれなくても一緒に歩いてくれるすばるがいる。

道を示してくれるまるちゃんがいる。

そしてきっと、寄り添ってくれるであろう大倉くんがいる。

いくら挫折してももう止まれない。

私はそれほどに音楽が好きだ。

∴