あなたと私、ときどきあの子。【やすば】 (ページ35)

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花の咲かない木ページ35

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時間というのは残酷で平等で正直だった。

無事に高校を卒業した俺達は着々と時間を消費する。

ヤスとあいつが確実に距離を縮める一方で、振り向きもしない男のために毎日楽器練習を続ける彼女は、花の咲かない木に延々と水をやり続ける幼子のように健気だった。

そんな彼女の背中を眺めていればいつの間にか去った冬は春を呼ぶ。

大学は案の定彼女の部屋から近くて、高校よりは時間がかかるものの20分ほどだ。

今日も不思議と行き道で鉢合わせた。

｢おい、俺の分は｣

｢会うかも分からへんのになんで持ってると思ってんねん笑｣

｢ひとくち｣

｢はい｣

暖かいコーヒーを飲む彼女はカップについたリップを拭いて俺に差し出す。

｢なんかええことでもあったんか｣

｢え？なんで？｣

｢なんとなく｣

手に渡ってきた暖かいコーヒーに口をつける。

少し甘めなそれは彼女らしい味で、コクリと一口飲むとまた彼女に差し返した。

｢だって今日から！部活！！｣

｢おまえたのしみにしとったもんなぁ笑｣

ニコニコと笑った彼女の足取りは心做しかいつもより浮ついていて、本当に音楽が、

そしてヤスのことが好きなんだろうと思う。

｢今日な、秘密兵器発表すんねん｣

｢歌？｣

｢それもやけど、あともう一個｣

｢なんやねん｣

｢まだ秘密！！バンメンが1番最初に知らなあかんやろ？｣

｢鬱陶しいわ笑｣

｢またお披露目するからさぁ笑｣

次のライブで！と笑った彼女の肩を軽く叩いた。

痛いと大袈裟に騒いでいるのを追い越してキャンパスに入る。

置いて行かんといてと隣に並んだ彼女の耳に、プロムの時と同じ鬼灯が光るのが見えた。

今日は、やけに天気のいい日だ。

彼女と別れて講義室に入ればヒラヒラと手を振る幼馴染がいた。

生憎その近くの席はどこも埋まっていたので、後ろに離れて座り携帯を弄る。

いつまでもアイツから離れられないのは同じバンドに所属している以上に、文理選択や受ける講義が同じなのが原因だろうとつくづく思った。

そんな時に上から降りてきた緑色の通知。

『昼、時間ある？』

ヤスからの一言に嫌な予感がしたのは言うまでもない。

それでも断る理由を見つけられなかった俺は、｢下のテラス｣と指を動かした。

どうせ避けられないなら早くても遅くても同じだ。

ざわざわと落ち着かない気持ちを抑えつけて携帯の電源を切った。

窓から入ってきた風に、少し前に座る彼女の栗色の毛が揺れるのが見えた。

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