あなたと私、ときどきあの子。【やすば】 (ページ22)

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わらえページ22

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｢いこか｣

｢うん｣

｢待って、亮がめっちゃ緊張してる｣

｢してへんわ！お前やろ！｣

｢行くで笑｣

言い合う亮と八木ちゃんを引っ張って裏口からドアノブを開けた。

その瞬間に舞い込む熱気と眩しいスポットライトの明かりはいつでも私たちを興奮させる。

章大がMCをする後ろ姿を見ながら少しチューニングを確認してスティックを回した。

物好きが見ていたらしくフゥ～と歓声が上がるので答えるようにドラムを叩く。

つられて沸きあがる観客、熱視線が気持ちいい。

今日は私たちの引退ライブだ。

時には叫ぶように、また時には語るように歌う章大はすぐに観客を虜にする。

気持ちよさそうに歌いながら時折私に目線を送って口角を上げるから、心臓がギュッと掴まれたように苦しかった。

それでもブレない私のリズムは私が彼の後ろで唯一誇れる技で、テンションが上がると私と目を合わせてそらさずリズムに体を揺らす章大がいた。

かっこよくて、楽しくて、恋しくて苦しい。

章大が奏でるギターの単音にコンマ1秒劣らずついて走る。

そのうちみんなの音が1つになって、観客のボルテージは最高潮に達した。

4人なのに1つで、その中に4つの音があって、大勢に囲まれていようがいまいが関係ない、そんな不思議な空間。

いつだってここから見る章大の背中が好きだった。

たまに振り返って笑いかける時、MCで天然発言を連発する時、いつでも私は彼の後ろで彼の背中を見ていた。

小さいようで広く大きい背中にいつでも恋焦がれていたのだ。

アンコールに入って最後の曲が始まる。

アコギに持ち直した章大はもう後ろを振り返ることは無く、一点を見つめて恋の歌を歌うのだ。

あの日、章大が彼女を好きになった日に選んだのと同じ歌を。

もちろんその一点の先にいるのは彼女だった。

何も考えなくても練習通りに動く手とは裏腹に、私は上手く息ができない。

先ほどより締め付けられた胸の自由を取り戻すべく息を吸った。

その時、彼女の隣に並んで音に身を任せていたすばると目が合った。

彼は楽しそうに笑うとその指先を自分の口元に持っていって、口角をキュッと上げる。

｢わらえ｣

と口パクする彼の言う通りに笑顔を浮かべれば、もう一度息の仕方を覚えた。

最後のステージは大成功に終わった。

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