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A「待って、！」
帰ろうとする誠也くんの服の裾を咄嗟に掴む
外は土砂降り。
冷たい雨が私たちを濡らしていく。
突っ立っている場合じゃないのに、やっぱり上手な言葉が出てこない。
私なら言える、丈くんが言ってくれたでしょ。
もっと素直に…もっともっと簡単な言葉でいい。それで大丈夫だから。
きっと、振り向いてくれるから……
A「…‥お願い、帰らないで」
A「もう…ひとりで眠りたくないから、お願い。」
誠也くんを困らせることなんて分かってる。
だけど、どうしても誠也くんの服の裾を離す気にはなれなかった。
誠也くんの居ない夜は不安で、怖くて、たくさんのものに押しつぶされそうだったから。
A「………私、誠也くんの隣で眠りたい」
ねぇ、“全部ちゃんと口に出しぃ”って教えてくれたのは誠也くんだよ？
こんなに素直になったんだから、
思ってること、ちゃんと口に出したんだから、、ね？
お願いだから、
…あなたの隣で眠らせて。
少しオトナなタールの重い煙草とバーの店内の香りを
そのまま連れてきてしまったみたいなきついアルコールの匂いをさせた誠也くん
…私たちの年齢の差を感じて、ちょっと嫌になる
誠也「…………俺、帰りたいんよ」
ドクリ、と心臓が跳ねた。
…やだ、置いていかないで。
誠也「せやから、」
誠也「…家、来ぃや？」
顔を上げた先には、少し微笑んだ誠也くん。
余裕ありげなその表情は、香り以上に
私たちの間に隔たる大きな年齢の壁を思い知らされる。
嬉しいはずのその言葉に、胸がズキ、と痛くなった
…こんな、告白みたいなことを言っても、女の子として見てくれないんだ、って。
…ちょっと絶望しそう。
A「……誠也くん、手ぇ、繋ぎたい、、」
誠也「ん、」
裾を掴んだままの少し震えた指先を離して、
誠也くんが差し出してくれた左手に絡める
私たちの手はひどく冷たかった_________
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作者名：こひな | 作成日時：2023年9月23日 21時
