67: side 萩原 研二 ページ20
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まだ湿り気の残った長い前髪を、少し鬱陶しいと思いながら掻き上げる。
…良い湯だった。むさっ苦しい男と入る古びたタイル張りの大浴場とは真逆な、明るくて大きくてとにかく綺麗なお風呂。
「俺明日ここから帰れんのか、本気で心配になってきたよねー。」
工藤邸の何もかもが快適すぎて、離れたくなくなる。
だって新一かわいいし。萩原さんって呼んでくれるんだよ?Aちゃん相変わらずめっちゃ良い子でずっと可愛いし。有希子さん女優時代から変わらない美しさでお茶目だし、優作さん優しいおじさまで素敵すぎる。
同じ東都にすごい一家がいたもんだ、と思いながらみんなのいる部屋に向かう。が、にしても広すぎる。風呂上がりの蒸気した身体は既にかなり冷めてしまった。
ぼやぼやと余計なことを考えながら移動していると不意に聞こえた、声。
工「だからー、何度も言ってるけど、」
「Aちゃん…?」
なんだなんだ、と思って声が聞こえる頭上を見上げると、ちょうど吹き抜けになっている2階にAちゃんがいた。彼女の部屋らしき場所のドアは開けっ放しで、誰かと電話しているようだ。
女の子の会話の盗み聞きは良くない、と俺の中の天使が言い、俺の中の悪魔が何の話か知りたがってその場に俺を留めようとする。
工「まだ…今はまだ、私じゃ力不足です」
深刻そうに告げた、Aちゃん。Aちゃんに気づいて欲しくて挙げかけた左手は行き場をなくして宙に漂う。…楽しい話題ではないことは明らかだ。
工「こうしませんか?…私は、日本の警察官になる。あなたは、」
工「あなたは、FBIの偉い人になる。」
…はっ!?FBI、?
『ー、ーーー…』
広い空間にAちゃんが発する言葉が反響して、電話相手の声も少し聞こえてくる。漏れ出る音は低周波。…電話相手は男か。
もう一度2階のAちゃんの方を見て、まだ俺に気が付いていないことを確認する。ドキン、ドキン、と大きくなる鼓動を感じながら、俺は静かにその場所を立ち去る。
ねぇ、FBIってなんなの、Aちゃん!?
映画でしか聞いたことのないその組織名に、またもや俺の頭はパニックだ。とにかく新一に聞いたら何かわかるんじゃないか、と思って廊下を足早に進む。
なんなんだよ、Aちゃん。こんなに手汗が止まらないのは、少し怖いから。
Aちゃんが遠くに行ってしまいそうで、感じていた幸せな空間がなくなってしまいそうで…。
焦りから、転げるように部屋への扉を開いた。
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青空(プロフ) - あおいさん» ありがとうございます!!!とっても嬉しいです‼︎ (6月29日 21時) (レス) id: 5e94745166 (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - 大好きです!!!!!更新頑張ってください!!!待ってます! (6月19日 7時) (レス) id: 418dda50ad (このIDを非表示/違反報告)
ホワホワ - 1日遅れですが読みました!続きが気になりすぎます!これからも応援してます! (5月29日 21時) (レス) @page41 id: 264214b0c8 (このIDを非表示/違反報告)
青空(プロフ) - ホワホワさん» いつもありがとうございます‼︎今日出したお話も楽しんでくださいね‼︎🌸ホワホワさんのコメントに助けられて3つも更新できちゃいました!🤭 (5月28日 23時) (レス) id: d616d8a279 (このIDを非表示/違反報告)
ホワホワ - めっちゃ面白いです!更新待ってます!頑張ってください! (5月25日 22時) (レス) @page38 id: fb5e568a3b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:青空 | 作成日時:2022年5月3日 9時