第五話 入学式 ページ7
｢まあ。なんて生意気な……っ、わたくしの班に入れてあげませんわよ！｣
｢結構よ。あなたに金魚の糞みたいにくっつくなんてまっぴら。私にだって、あなたを押しのけてでも特待生にならないといけない理由があるんだから｣
はっきりと口に出して言った。自分自身、それを自覚するためにも。
｢あ、ありえませんわ！ わたくしを差し置いて特待生になろうなんて！ さてはイラムール家のコネを使うつもりですわね！｣
ベアトリスは私に指を突きつけ、顔を真っ赤にさせていた。
そんな発想、日頃からそれを活用しまくっている誰かさんじゃないと出てこないわよ。
｢勘違いしているようだけど、正しくはイラムール家の人間じゃないわよ、私｣
｢え？｣
ゆっくりと胸に手を当てた。そして目を細め、私は、
｢私の名前はルキア･テネーブル｣
正しくそう名乗った。すると周囲が、一瞬だけ静まり返る。そして、
｢テネーブルって……あのテネーブル？｣
｢今年はテネーブル家の人間がいるのか!?｣
風船が弾けたようにどっとやかましくなる。一年生だけでなく、上級生も。
この名はある意味で、アキル家より有名かもしれないから。
｢世界一悪い魔女の末裔よ。どうぞよろしく｣
わざとらしく、仰々しく挨拶をしてみせる。
あなたが一族の威を借りるのなら、私はご先祖様の特大級の悪名を借りてみましょう。
｢な……何ですのよ……っ、テネーブル家なんて位を剥奪された没落貴族じゃない！｣
ベアトリス･アキルは大層機嫌を損ねたようで、長い髪を豪快に払って、取り巻きを引き連れて大食堂を出ていった。
｢はあ。やっちゃった。できるだけ謙虚にいこうと思ってたのに。入学早々、厄介なのを敵に回しちゃったわねえ｣
私はまた席について天を仰いだ。スマートな学校生活の幕開け、とはいかないらしい。
｢ルキア、ありがとう。私のために……｣
隣のアリアは申し訳なさそうな表情だ。私は軽快に笑う。
｢んー、いいのよアリア。あなたが勇気を出してこの国に来てくれたのに、私が名家の令嬢にびびってたらカッコ悪いじゃない。いっそせいせいした｣
｢……ルキア。あなたは何というか、本当にかの魔女の末裔なのね｣
知っているくせに何を今更、とも思ったが、きっとアリアが言いたかったのはそういうことではないのだろう。
｢そうだアリア。私と一緒に班を作ってくれない？ このままじゃ私、一人ぼっちになっちゃう！｣
さっきまでの威勢はどこへやら。子犬みたいに目を潤ませて、アリアの手を握る。
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2019年12月19日 17時
