第六話 使い魔召喚の儀 ページ20
｢あ……｣
外で寝そべる、一匹の立派な灰色狼。なるほど、彼の使い魔は狼なのね。
｢カッコいい。我が家にはいなかったから、憧れちゃう。狼は主人を守ってくれるし、気ままで素敵よね｣
｢……まあな。
ノア･フランチェスカは、この時ばかりは柔らかい表情をしていた。
そのまま作業机に戻ろうとしたが、私は彼の肩を掴み、逃すまいとする。
｢ねえ！ もうどこかの班にスカウトされた？ 私、班員を募集中なの｣
ノア･フランチェスカは急に神経質な表情になり、視線を横に逸らしながら、
｢その話か。……ベアトリス･アキルに誘われた｣
｢もしかして引き受けた!?｣
優秀な者を求めるベアトリスが、真っ先に彼を誘わないのも、確かにおかしい。
｢いや……庶民だけど班員にしてやる、ありがたく引き受けろ。と上から目線だったから『君は異国出身者は嫌いだろ』と言って断った。ああ言う傲慢な魔術師は嫌いだ｣
｢ああ……｣
その光景はありありと思い浮かぶ。彼は歓迎会のいざこざを知っていたのか。それに、首席の彼は、どちらかと言うと班員を選べる立場にいる。
｢気持ちはわかるわ。うちはご先祖様がかなりのワルで色々言われちゃうから。そもそも、貴族だろうが庶民だろうが、魔術師には関係ないわ。実力主義であって然るべきよ｣
血統主義の魔術師もいるが、私から言わせればバカバカしい。
リョウのような天才もいるし、私は常々その凄さを見せつけられ、鼻っ柱を砕かれ続けてきた。家柄なんてあの手の天才の前では無意味よ。
ノア･フランチェスカもそうだ。リョウとは違うタイプの天才に違いない。
｢というわけで私と班を組まない？ いえ……違うわね｣
私はその誘いを、すぐに改め、手を伸ばす。
｢まずは私と、お友達にならない？ ノア･フランチェスカ｣
｢…………｣
開け放った天窓から潮風とブドウの香りが、風に乗って流れてくる。
一瞬の爽やかな沈黙。彼は意外と気の抜けたような顔で、私の手を見つめている。
それでも、手は握ってくれず。
差し出しただけの手の虚しさと言ったら……ぐっぱ、ぐっぱしながら、誤魔化しつつ、
｢ま、まあ……？ 確かに私は、使い魔召喚の儀でカラスを召喚して、誰も班員になってくれない余り物だけど……っ。あ！ でもカラスはカッコいいのよ！｣
｢……カラス？｣
彼は、私がさっき作業していたスペースに視線を向けた。
そこには作りかけの、木材で作った四角い箱が。
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作者名：オムとセナときどきパール | 作成日時：2019年12月19日 17時
