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白い病室の中に、二人の人間がいた。
一人はベッドの上で上半身を起こした、長い黒髪を持つ、幼さの残る顔立ちの少女。もう一人は、着流しに身を包んだ近藤。
少女の顔色は悪く、その目は絶望に満ちていた。
「…看護師さんから聞いた。今日、屋上から身投げしようとしたんだってな」
低く、悲しそうな声で近藤は言った。少女は足の上にかけられた布団を握り締める。
「そんな事しちゃ、ご両親が悲しむぞ」
返事は期待していなかった。精神的なショックで、彼女は口を聞けなくなっていたからだった。
近藤が少女の声を聞いたのは、最初に出会った時だけ。
泣きながら、ボロボロになって、必死に何かから逃げるように走って来た彼女とぶつかった時。
『ごめ……な、さい』
それは近藤に対して謝っているようでいて、全く別の誰かに謝っているようでもあった。
しかしそれ以降、彼女は一切口を開かない。精神的な療養が必要となり入院し始めても、まるで周りを拒むかのように。
だから近藤は、彼女が入院し始めて三か月経とうとしている今でも、彼女の名前を知らなかった。
知っているのは、彼女の縁者が一切見舞いに来ない事から、恐らく天涯孤独なのであろうということ。
そして毎日、何かしらの方法で命を絶とうとしていること。
だが、彼女が入院してからできるだけ毎日見舞いに訪れるようにしていた甲斐があってか。その日初めて、彼女は口を開いた。
「……私のせいで、父さんと母さんは死んだ」
長い間発していなかったせいか、かすれてしまったか細い声。
苦しそうに唇を噛み締め、彼女は俯く。
長い黒髪が彼女の横顔を隠した。
「……生きて、たくない」
――私が、父さんと母さんの代わりに死ねばよかったのに。
ぽつり、と。布団の上に透明な雫が零れて弾けた。
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伽那 - 一言で言うとこれめっちゃ好き (2019年11月26日 22時) (レス) id: dad38348f0 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 沖田総悟さん» ありがとうございます!!もう!受験早く終われ!!!(泣)じわじわ更新ですが頑張ります! (2018年1月5日 8時) (レス) id: 3282eb2821 (このIDを非表示/違反報告)
沖田総悟 - とっても面白かったです!!キュンキュンもするし、見ながら泣きました‥。更新がんばってください!そして、受験ガンバってくださいね!!応援してます!! (2018年1月4日 19時) (レス) id: b86e1fcd7d (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - にんじん さん» あぁありがとうございます!!(泣)あと9日なんですよねー……ハハ。頑張ります! (2018年1月4日 14時) (レス) id: e79ecf6629 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - 受験頑張ってください!応援してます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 1018656ff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜華 | 作成日時:2017年9月29日 20時