検索窓
今日:4 hit、昨日:13 hit、合計:499,735 hit

98 ページ20



目的地にたどり着いた時には、もうすっかり日が昇ってしまっていた。夏の蒸し暑さで、べったりとした汗が体を伝い落ちる。

それでも江戸の中心部とは打って変わってとても静かで、裏手に山もあるここは、まだ涼しい方かもしれなかった。


「……ただいま。父さん、母さん」


民家が立ち並ぶ中の、特に寂れて雑草が生え放題の家の前に、私は立った。


ここに帰って来たのは、あの日以来か。


そっと中に入ったけれど、家の中にまで入る気はしなかった。取り敢えず庭の方に行って、縁側に腰かけて蝉の声に耳を傾ける。

中に入った方が絶対涼しいとは思うけれど、そうしたくないのは単純に、まだ残っていると思うからだ。


――大量の血痕と共に、べったりと染みついたあの日の記憶が。


勿論ここに帰ってくるだけで思い出さざるを得ないのだけれど、中のそれを見ると、余計に鮮明に思い出してしまいそうだった。


「…はぁ」


ただでさえ暗い気分なのに、余計に暗い気分になる場所に帰って来るとか…、私って馬鹿かなぁ。


「ご近所さんに見られたりしたら、驚かれるよね…」


とは言っても、ここが落ち着くのは変えようがない事実だ。本当は帰ってくるべきじゃなかったんだけど。


でも別に今日くらい良いよね、なんて、あれこれ自分に言い訳しながら、縁側にごろりと転がる。そうすると、背の高い雑草や塀が良い感じに姿を隠してくれるので、誰かに見られる心配も無さそうだった。

ぼんやりと庭を眺めていると、その中にちらほらと薬草が生えているのに気が付いた。


…あれ、私が初めて育てた奴だっけ。


大きな葉を広げているそれをじっと見ていると、どこからか声がした。


『母さん母さん、お薬生えた!ちゃんと生えたよ!』

『本当。よくできたね、A。でもそれはまだ薬じゃないからね?』


目の前の景色と、小さい頃の記憶が重なる。母の優しくて柔らかい手が、頭を撫でてくれた感触を思い出し、目頭が熱くなった。

記憶を振り払うように腕を目に当てるも、声はまだ聞こえていた。


『父さん、今日一緒に星見たい!ね、行こうよ!』

『夕方になってからな。俺たちは昼でも星は見れるけど、誰かに見られたら大変だろ』


はしゃぐ私に苦笑する、父の優しい声。


「…はは……」


自嘲すると、目尻から熱いモノが零れ落ちた。


「やっぱ、帰ってくるんじゃなかったかなぁ……」


――寂しくなるばっかりじゃん。こんなの。

99→←97



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (418 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1598人がお気に入り
設定タグ:銀魂 , 沖田総悟
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

伽那 - 一言で言うとこれめっちゃ好き (2019年11月26日 22時) (レス) id: dad38348f0 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 沖田総悟さん» ありがとうございます!!もう!受験早く終われ!!!(泣)じわじわ更新ですが頑張ります! (2018年1月5日 8時) (レス) id: 3282eb2821 (このIDを非表示/違反報告)
沖田総悟 - とっても面白かったです!!キュンキュンもするし、見ながら泣きました‥。更新がんばってください!そして、受験ガンバってくださいね!!応援してます!! (2018年1月4日 19時) (レス) id: b86e1fcd7d (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - にんじん  さん» あぁありがとうございます!!(泣)あと9日なんですよねー……ハハ。頑張ります! (2018年1月4日 14時) (レス) id: e79ecf6629 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん   - 受験頑張ってください!応援してます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 1018656ff9 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:霜夜華 | 作成日時:2017年9月29日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。