Story.10 ページ12
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(芹沼 花依 視点)
朱に染まった空を背景に烏が鳴きながら飛んでいく。
それを横目に、学校が終わった私は、急いで帰路についていた。
「A、大丈夫かなぁ……」
思わず、独り言が漏れる。
Aが早退したと聞かされたのは、昼休みに入る直前だった。
手当した後も、中々目を覚まさないAに、用事から帰ってきた保健室の先生が付き添いを変わると申し出てくれたものだから、有難く四限目の授業へ向かった。
昼休みに水を持って様子を見に行こうと思ったら、Aが帰宅したという事を、六見先輩が伝えにきてくれたという訳だ。
酷く心配する私に、「そこまで不安にならなくても大丈夫だよ」と、六見先輩は優しく声を掛けてくれたけど、私の大事な双子の弟、心配になるに決まってる。
昼間の事を思い出しながら、「ただいま!」と、やや荒々しく自宅の扉を開ける。
すると、「うわぁっ」と、余り聞きなれない声が返ってきた。
「か、花依ちゃん? おかえり」
「つ、綴さん!?」
芹沼つづりさん。
一駅程離れた所に住んでいる親戚で偶に私達の家に遊びに来る一個上のお兄さん。
後ろで一つに縛った腰までの銀髪と、耳元で青色に輝くピアスが特徴的で、私とAと一緒の瞳の色は血の繋がりを感じたりする。
人懐っこく可愛らしい微笑みを浮かべて、手を振る姿はまさに小動物。
とはいえ、身長はそこら辺の男子高校生よりも高いんだろうけど。
余りの美形にカップリングしたくなる衝動を堪えていれば、萌え袖状態の手でマグカップを二つ持つ綴さんが、ゆったりと私の方へと近づいて来ていた。
「ふふっ、慌てて帰ってきたの? はい、これ、お水」
「えっ、良いんですか?」
「うん、自分の分はまた後で取りに行けば良いからね。
ところで……、Aが怪我して帰ってきたんだけど……」
「何か知ってる?」と、こてんと首を傾げる綴さん。
不安げな綴さんに妙に滾るものを感じながら、今日あった一連の事を伝えた。
「ふーん……、男に、ねぇ……」
「綴さん?」
微かに目付きが鋭くなった彼に声を掛けると、柔らかい笑みが返ってきた。
「教えてくれてありがとう。A、心配掛けたくないのか全然教えてくれなかったからさ。後は、僕が診てるから安心して」
「はい、お願いします」
ぺこりと、頭を下げる。
「相変わらず仲が良いなぁ……」だなんて、呑気に呟きながら。
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アイス - 更新ってもうしないんですか? (2021年8月9日 12時) (レス) id: a3de5516c6 (このIDを非表示/違反報告)
一夜(プロフ) - とても読みやすくて良かったです!今後の展開(主に六見先輩との絡み←)が楽しみです! (2019年10月31日 21時) (レス) id: cff84df643 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:佐伯 | 作成日時:2019年3月3日 21時