Story.9 ページ11
..
「大丈夫ですか？ 立てますか？」
『…………』
「足……、怪我したんですか？」
『…………』
「相変わらずの無視なんですね」
『っ…………』
一つ溜息を零した後輩。
呆れている？ 怒っている？
こちらに向かって歩いてくる後輩に乱暴されるのかと、ある筈も無い恐怖に、只々怯えていると、すっと横を通り過ぎて、肩を貸していた男子生徒を僕が今まで寝ていたベッドに寝かせた
かと思えば、再び、僕の横を通り過ぎ、陳列された棚の前で何やら作業した後輩は、布に巻かれた何かを手に戻ってきた。
「これで冷やして下さい」
差し出されたそれは恐らく氷袋。
わざわざ、ハンカチに包んでいるという事は、保健委員なりの細かい思いやりなのか。
親切心でやっている事は分かっている。
だけど、中々、手渡しで受け取れず、後輩の眉根が寄っていくのを見ているだけでいると、ふと、横からその氷袋を受け取る手があった。
「俺が貰うよ。ありがとう」
「六見、先輩……」
氷袋を受け取ったのは、史学部所属の六見先輩だった。
何時もと変わらない、感情の起伏が少ない表情を浮かべて、僕を見据える先輩。
年上の男性な上に何を考えているのか分からない性格に昔はかなり怯えたが、今は僕が男性恐怖症であるのを家族以外で唯一知っている人でもあり、恐怖は少ない。
だからといって、完全に怖く無いとは言えないのだが……。
自身の事情を知っている人の登場に少し安堵する。
「大丈夫？ A君」
『っ、だ、大丈夫、です…………』
「よしよし、無理しなくても良いからね。一人で立てそう？」
『……っ、は、い…………』
男に触れない様に配慮してくれた六見先輩の言葉に小さく頷いて、床に付けると鈍い痛みが走る左足を極力庇いながら立ち上がったが、六見先輩は難しい顔を見せた。
「うーん……、結構辛そうだね。
安静を取って今日は早退した方が良いかも……」
手が触れない様に、四ノ宮君から渡された氷袋をそっと僕に手渡しつつ、「先生とA君のお姉さんには俺から伝えておくから」と付け足した六見先輩の言葉で、僕は一足先に早退という形で帰宅する事になった。
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アイス - 更新ってもうしないんですか? (2021年8月9日 12時) (
レス) id: a3de5516c6 (このIDを非表示/違反報告)
一夜(プロフ) - とても読みやすくて良かったです！今後の展開(主に六見先輩との絡み←)が楽しみです！ (2019年10月31日 21時) (レス) id: cff84df643 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：佐伯 | 作成日時：2019年3月3日 21時
