バイト先は青心寮！【２】

7-6 失った光 ページ10

Aと御幸に背を向けて歩き始めてから、クリスは部屋には戻らず、中庭を抜けて寮の周囲をゆっくりと歩いていた。

様々な感情が混沌としていて、自分でも訳がわからなくなりそうだ。


『…自覚してるなら、大人になれば？』

簡単に言わないでくれ。
できるものならとっくにそうしている。

『…この一年間…クリス君は、辛かったと思う。苦しかったと思う。私なんかが軽々しく言っちゃいけないほど…』

そうだ。
この苦しみは他人にわかるはずがない。
どんなにもがいても頑張っても努力しても…
成果の見えない虚しさが、あなたにわかるのか？
まして、この状況を招いたのは他でもない自分自身なのだ。
自分を責めるなと言う方が無理だ。

『でも… あなたは、自分でその一番辛い道を選んだんでしょ？選手としての道を』

確かにそうだ。
例え僅かでも、一年後、選手としてグラウンドに立てる可能性があるのなら、それを諦めたくはなかった。

けれど。

その道は自分の想像以上に暗く、険しくて。

真面目にリハビリを続けても、一向に回復の兆しを見せない自分の肩。
その間にもチームは新体制となり、どんどん前へ進んでいく。

焦ってはいけない。
何度も自分にそう言い聞かせ、地道な努力を続けたが、チームとの距離は広がるばかりで。

間に合うのだろうか。
自分は本当に、もう一度選手としてこのグラウンドに立てるのだろうか。
このまま…置いていかれるのではないか。

一度芽生えた疑念は、もう払拭することができず、ガン細胞のように自分の心を侵食していった。

心の拠り所だった、選手としての未来。
それが一気に遠ざかった気がして…自分は道標となる光を失ってしまった。

…いや、完全に失ったわけではないが…

その光は、あまりに小さすぎて…

あまりにか細すぎて…。


いつの間にか、『そこ』を目指す事が怖くなった。
『未来』を考える事が辛くなった。

どんなに努力しても、たどり着けないかもしれない。

そう思ったら、前に進めなくなってしまった。

だから…

弱々しい光から目を逸らし、わざと先の事は考えないようにして、ただ日々のリハビリに打ち込んだ。
自分の周りに壁を作り、他の部員達と話すことがないよう距離を取った。

それでようやく心のバランスが取れるようになったのだ。

7-7 瞬く光→←7-5 伝えるということ

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