バイト先は青心寮！【２】

7-4 貫け ページ8

食堂の角を曲がったところで、Aはクリスの背中を見つけた。

「クリス君！」

走りながら名を呼ぶと、クリスは歩みを止める。
背を向けたままのクリスに追い付いて、Aは後ろから問いかけた。

「…さっきのは…何…？」

ゆっくりと、クリスは振り返った。
相変わらず感情を映さない瞳で。

「…何…とは？」

「…まるで他人事みたいな言い方だったね。沢村君のことも、今年のチームのことも。」

真っ直ぐにクリスの目を見つめ返しながら、Aは言った。

「沢村君の成長を助けてやれるほど大人じゃない？…自覚してるなら、大人になれば？」

「……………………。」

クリスは答えない。
無表情のまま、静かにAを見つめていた。

「…この一年間…クリス君は、辛かったと思う。苦しかったと思う。私なんかが軽々しく言っちゃいけないほど…。」

拳を握り締めて、Aは話し続ける。

「でも… あなたは、自分でその一番辛い道を選んだんでしょ？選手として道を。」

部を辞めることも、マネージャーになることも、選択肢にはあったはずだ。
それでもクリスは、選手を選んだ。

高校生のうちに再び試合に出られる可能性は低くても

辛いリハビリが待っているとわかっていても

監督に頭を下げられても

それでもなお譲れない気持ちがあったというのなら。

「だったら…中途半端に諦めてないで、最後まで自分の気持ちを貫き通して見せなさいよ！！」

感情が高ぶって溢れそうになる涙を堪えながら、Aは叫んだ。

「今のままでいいの？自分から壁を作って、全て他人事だと突っぱねて… それで、胸を張って引退できるの？卒業できるの？ 」

酷な要求なのかもしれない。
さらに苦しみを与えることになるかもしれない。

それでも。

この一年を無駄にして欲しくない。

全ての経験を、己の力に変えて

前へ進め！！

仲間のために。

そして何よりも、自分自身のために。

「…私、ただの寮のアルバイトだけど…入ってまだ2ヶ月も経ってないけど…自分が関わった人のことは、やっぱり応援したいと思うよ…」

一度視線を地面に落とし、Aは呟くように言った。
それからまたスッと顔を上げ、クリスの目を捕らえる。

「たった3年間の高校生活を、あとになって後悔して欲しくない。みんなと一緒に、笑って卒業して欲しい。…クリス君…もう自分を責めるのはやめて、前に進もうよ。」

自分の気持ちを言葉に乗せ、精一杯の思いでAは伝えた。

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