11-4 クリスの報告(2) ページ49
「はい。ほぼ治ってはいますが、まだ100%の状態ではなかったようです。…なので、まずは治せと。そしてその上で、御幸と宮内のサポートと、投手陣をまとめて見てくれと頼まれました。」
宮内、というのは、一軍の控え捕手だ。
つまり監督は、クリスに絶大な信頼を置いており、チームの要となる捕手と投手の指導・育成を任せたということなのだろう。
「俺の、選手としての夏は終わりましたが…チームの裏方として大きな仕事を与えられました。やらなければならない事はたくさんあります。腐っている暇はありません。」
どこか吹っ切れたような、爽やかにすら見える表情でクリスは言う。
どうやら、クリスの中ではすでに気持ちの整理はついているようだ。
「…それは…ほんとに、大仕事だね…」
本人が現実を受け入れてしっかりと顔を上げている以上、他人である自分が沈んだ顔をしていてはいけないだろう。
Aはどうにか笑顔を作ってクリスに向けた。
「きっと、一軍のみんなが…クリス君達の気持ちも背負って戦ってくれるよ…」
「はい。俺も…そう思います。」
そう言いながら静かに微笑むクリスを見て、Aは胸と目頭が熱くなってくるのを感じた。
悔いはない、とクリス本人は言っているが…やはり、それなりに悔しい思いはあったはずだ。
甲子園を目指す戦いをただ見守るのではなく、当事者としてグラウンドに立ちたかったはずだ。
…それでもクリスは今、笑っている…。
改めてそう思った時、熱くなっていたAの目から、一筋の涙が溢れた。
それを見たクリスが、目を見張る。
「あ…ご、ごめ…!」
自分が泣いてどうする、と内心で自分を叱責しながら、Aはぐいっと手の甲で涙を拭った。
「高瀬さん…」
「ごめんね…!泣くつもりは、なかったんだけど…!」
そう言っている間にも、一筋、また一筋と、涙が溢れてくる。
クリスに合わせる顔がなく、Aが俯いて涙を拭っていると、クリスが困惑したような、苦笑いのような表情を浮かべて近付いてきた。
Aの目の前までくると、相変わらず静かな声で問いかける。
「…高瀬さん…俺…自惚れてもいいですか?」
「…え?」
クリスの質問の意味がわからず、Aは思わず顔を上げる。
満月の月明かりの中、クリスは真っ直ぐにAを見つめながら告げた。
「俺のために、泣いてくれてる、と…」
「…クリスく…」
Aが濡れたままの目を見張った、次の瞬間。
クリスはAを胸に抱き締めた。
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雪星(プロフ) - れいちぇるさん» こんばんは(^-^)/私も大好きです~(≧▽≦)なので気合い入れて書いてます(^^;はい、これからも頑張りますね!暫く原作丸写し気味な試合描写が続いてしまいますが…(^^; (2015年9月27日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
れいちぇる - こんばんは。 この、クリス先輩がプレーするところ大好きです!!感動です!!!(´;∀⊂) これからも更新頑張ってください!! (2015年9月27日 0時) (レス) id: fe9e519966 (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - *モッチー*さん» *モッチー*さん、初めましてこんばんは(^-^)/…うぉぇっ!?ぜ、全部ですか!?うわー、うわー、なんか恥ずかしくてワタワタしております(^^;でも嬉しいですありがとうごさいます(≧▽≦)はい、これからも頑張りますねー(^-^)/ (2015年9月1日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
*モッチー*(プロフ) - 初めましてε(*゚∇゚*)ノ゙雪星さんの作品がどれも大好きで全部読んでいます! 春っちと初めて会話シーンみて、ついニヤニヤしてしまいました(笑)これからも頑張って下さい(´∀`*) (2015年8月31日 21時) (レス) id: 2a54e6e35a (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - まもたんさん» スッキリしていただけたようでよかったです(>_<)応援ありがとうございます(*^^*)はい、頑張りますね(^-^)/ (2015年8月24日 21時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪星 | 作成日時:2015年8月22日 12時