10-15 黒士舘戦―最高のボール― ページ45
一死一・三塁。
フーッと大きく息を吐いてから、沢村がザッと足を上げた瞬間、三塁ランナーがスタートを切った。
同時に、打者がバントの構えを取る。
初球スクイズ!
Aがそう気付いた時には、沢村が投げた球はすでに低めの軌道を描いており、ホームベース手前でワンバンするのが見えた。
「ぼ…暴投!?」
「あ…あの投手、自滅しやがっ…」
どうにかバットに当てようとして打者は前のめりに倒れ込み、クリスはボールを止めようと体を動かした。
大きく舞った砂煙が、ゆっくりと晴れていく。
そしてそこに見えてきたのは…きっちりとボールが収められたクリスのミット。
すでにホームベース手前まで来ていた三塁ランナーがそれに気付き、慌てて三塁へ戻ろうとしたが、クリスのタッチの方が早かった。
「初球スクイズ失敗!!」
「い、今の、わざとワンバン投げたのか!?」
「いや…どう見てもただの暴投だろ…」
「結果的にウエストしたことになりやがった!」
「暴投をきっちり止めたあの捕手のファインプレーだぞ!!」
ざわめくギャラリーの目の前で、沢村が慌てた表情でクリスに駆け寄っている。
そのクリスは、ふぅ、と息を吐いたあと…どこか満足気な表情で、ドン、とミットで沢村の胸を叩いた。
その様子を見ていたAは目を見開き…一瞬遅れて、胸が熱くなってくるのを感じた。
おそらく沢村は…わざとワンバンを投げたのだろう。
クリスが必ず止めてくれると信じて。
そこにあったのは、まぎれもなくバッテリー間の確かな絆だった。
一塁ランナーには二塁に進まれたが、二死二塁となり、沢村とクリスのバッテリーは心置きなく打者との勝負に臨んだ。
しかし、打者の方も意地があるのか簡単には打ち取らせてくれず、追い込まれてからも何球も続けてファールで粘る。
もはや何球目かわからなくなったころ、力強い打球が三塁線に飛んだが、またしてもファールとなった。
そして、沢村の次の投球。
今までよりも沢村の足が高く上がったような気がして、ゴクリと息を飲んだAの目の前で。
ドパアァン!!
打者のバットは空を切り、沢村の球がクリスのミットに収まる乾いた音がグラウンドに響いた。
その後、ベンチに戻った沢村とクリスは、二人揃ってそのタイミングで交代となった。
3回を投げ終え、四死球6個。
度重なるピンチをなんとか乗り越え…被安打0、無失点。
それが、この日の沢村が出した結果だった。
11-1 一軍昇格メンバー発表→←10-14 黒士舘戦―揺さぶり(2)―
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雪星(プロフ) - れいちぇるさん» こんばんは(^-^)/私も大好きです~(≧▽≦)なので気合い入れて書いてます(^^;はい、これからも頑張りますね!暫く原作丸写し気味な試合描写が続いてしまいますが…(^^; (2015年9月27日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
れいちぇる - こんばんは。 この、クリス先輩がプレーするところ大好きです!!感動です!!!(´;∀⊂) これからも更新頑張ってください!! (2015年9月27日 0時) (レス) id: fe9e519966 (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - *モッチー*さん» *モッチー*さん、初めましてこんばんは(^-^)/…うぉぇっ!?ぜ、全部ですか!?うわー、うわー、なんか恥ずかしくてワタワタしております(^^;でも嬉しいですありがとうごさいます(≧▽≦)はい、これからも頑張りますねー(^-^)/ (2015年9月1日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
*モッチー*(プロフ) - 初めましてε(*゚∇゚*)ノ゙雪星さんの作品がどれも大好きで全部読んでいます! 春っちと初めて会話シーンみて、ついニヤニヤしてしまいました(笑)これからも頑張って下さい(´∀`*) (2015年8月31日 21時) (レス) id: 2a54e6e35a (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - まもたんさん» スッキリしていただけたようでよかったです(>_<)応援ありがとうございます(*^^*)はい、頑張りますね(^-^)/ (2015年8月24日 21時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪星 | 作成日時:2015年8月22日 12時