バイト先は青心寮！【２】

10-13 黒士舘戦―揺さぶり(1)― ページ43

その頃グラウンドでは、春市の後続が黒士舘の投手に打ち取られてしまい、青道の追加点は1点止まりとなった。

そして迎えた、3回表。
3点を追う黒士舘が、ここで揺さぶりをかけてきた。
この回の黒士舘の攻撃は、打順が戻って一番打者からだったが、しつこいほどにバントの構えをしてみせたのだった。

バントするのか？しないのか？

どうしても気になった様子の沢村は、結局この打者をフォアボールで歩かせてしまう。

そして迎えた二番打者。
彼もまた、バントの構えを繰り返す。
送りバントなのかと思いきや、明らかなストライクでもバットを引いて見逃し、大きくリードを取る一塁ランナーへクリスが牽制球を投げる場面が多く見られた。

そうこうしている間にフルカウントとなり、沢村が六球目を投じた瞬間。
打者がまたしてもバントの構えを取った。

「えっ？スリーバント…！？」

Aが思わず呟いて見つめる中、ガコッと音がしてボールがバットに当たったものの…打球はクリスの後方へ勢いよく飛んでいき、ファールとなった。

「あ〜、スリーバント失敗！！」

「もったいねェ！」

黒士舘ベンチからは、ため息とともにそんな声が漏れている。

「おーし！まずは1アウト！！」

マウンド上の沢村はというと、自分に言い聞かせるように大きな声を出していた。

次に打席に立ったのは三番打者。
彼はなんと最初からバントの構えを見せた。
沢村が若干イラついた雰囲気を見せながら、投球モーションに入り、足を上げた瞬間…

「GOー！！」

一塁ランナーがスタートを切った。
捕球したクリスが素早く二塁へ送球するが…

「…え？」

ボールはマウンドの後ろでワンバンし、かつ二塁から大きく左へずれてしまった。
ショートがかろうじて反応して捕球したが、当然盗塁は成功し、無死二塁となる。

「何だ今の…引っかけたのか！？」

「あの捕手が悪送球！？」

ギャラリーの声を聞きながら、Aは嫌な汗が背中を伝うのを感じた。

もしかして、クリスの肩は、まだ本調子ではないのでは…

すると、同じことを思ったのかグラウンドでは沢村もクリスに声をかけていたが、クリスが手で制し、大丈夫だと言っているようだった。

「1アウトー！！外野、バックホームあるぞ！！」

その雰囲気を振り払うかのように、クリスは再び大きな声を出す。

「内野ー！！1つずついくぞ！！ランナー気にするな、思いっきり投げてこい沢村ー！！」

「はい！！」

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