バイト先は青心寮！【２】

10-12 黒士舘戦―クリスを見つめる人(3)― ページ42

二死二・三塁。
クリスの声に気合いを入れ直した沢村が、打者へ向かって思いっきり腕を振る。

ガキンッ！

重い金属音がしたあと、打球はバックネットへと飛んでいく。
クリスはすぐさまマスクを飛ばし、打球を追って駆け出した。

「と、捕りにいくつもりか！？あの捕手！！」

間に合うかどうか、というよりも、ボールの落下予測地点があまりにもフェンスに近すぎて…

「危な…！」

ギュッと、思わず両手を握り締めながらAが叫んだ直後、

ドカッ！！

クリスが突っ込んだあたりに砂煙が舞った。
沢村やアニマル、ベンチや主力陣、そしてA。
関係者が言葉を失って見つめる中、ゆっくりと砂煙が晴れていき、壁にもたれかかりつつも、しっかりと捕球したミットを掲げるクリスの姿が見えてきた。

「と…捕ってる！？」

「フェンスギリギリ、躊躇なく突っ込みやがった！！」

「ケガが怖くねぇのかアイツ！？」

沢村が慌ててクリスに駆け寄るが、クリス自身は何やら余裕の表情を浮かべ、沢村とともにゆっくりベンチへ戻ってくる。
どうやら大事には至っていないであろうその様子に、Aはホッと胸を撫で下ろした。

体を張って貪欲にアウトを取りに行き、チームを勝利に導こうとするあの姿こそ、クリスの本来のプレースタイルなのかもしれない。

そんなことを考えながら、Aは攻守交替が行われているグラウンドを見つめていた。


そして2回裏、青道の攻撃は、八番のクリスから。
初回の春市と同様初球を叩き、レフト前ヒットを放った。
次のバッターは沢村だ。
果たして沢村のバッティングはどうなのかと思ったAだが、ここはセオリー通りの送りバント。
しかも、打球の勢いを殺した絶妙なバントで、クリスは余裕を持って二塁へと進塁した。

そして打順は一番に戻って春市。
初球をフルスイングしてファールになったが、二球目のスライダーを綺麗に流し打ち、ライト前へ運んだ。
初球のファールを見て長打を警戒し、後ろに下がっていたライトが返球に手間取る間にクリスが生還し、青道は1点を追加した。


クリスが戻ってきたのを見て、アニマルは声が届く場所へ急いで移動し、沢村とともにブルペンへ向かおうとしていたクリスを呼び止めた。

「お…おい優、ちょっと待て！！優っ！！」

「…親父…」

「…ガンバレ…優…ガンバレ…」

両の拳を握り締めながら、絞り出すようにそう伝えたアニマルに、クリスは嬉しそうな微笑みを返した。

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