バイト先は青心寮！【２】

10-11 黒士舘戦―クリスを見つめる人(2)― ページ41

ガキッ！

八番打者へ投じた沢村の三球目。
甘く入ったように見えたのか打者が打ちにいったが、ボールはバットの根元近くに当たり、ボテボテとファースト前へ。
打球の勢いが死んでいたため、三塁は間に合わないと判断したクリスが一塁送球の指示を出し、二死二・三塁となった。

「オーマイガー。まさかあのクレイジー男(ボーイ)が先発なのか？」

その様子を見ていた、Aの隣に立った男性のギャラリーが口を開く。

「しかも…日本(ジャパン)じゃあまり見ないムービングの使い手だったとは…」

その声に、A以外のギャラリーもその男性に気付き、振り返り…彼の正体に気付いて驚愕の表情を浮かべた。

金髪にサングラス、カタコトの日本語でがっしりとした体つき…

「おわあぁ、アニマルだァ！！」

「芸人のアニマルだろ、アレ！」

「カタコト芸で人気の芸人がなぜここにィ！？」

「つーかでかっ！！」

真っ先にアニマルに気付いたAも、呆気に取られながら彼を見つめていた。
テレビに出ているような人が、なぜここに…。
それに…この人は、確か『芸人』ではなかったような…。
すると、アニマル本人がギャラリーの声に焦ったように反論し始めた。

「だ…誰がコメディアンね？ミーは野球人ね！！」

「アニマル、サインくれ！！」

「アニマル〜」

自分の言うことを全く聞いていないギャラリーに、アニマルはさらに反論しようとしたが、グラウンドのクリスの方を見て驚いた表情を浮かべた。

「っ！！ゆ…優…！」

その呼び掛け方に、Aがさらに驚いた直後。

「なんでお前が試合に！？わ…悪い予感がしていたんダ！やはりこの学校は、ウチの息子をつぶす気なんだナ！！」

必死にグラウンドへ呼び掛けるアニマルと、グラウンドからこちらを見つめ返しているクリスを交互に見ながら、Aは理解した。

この二人は…アニマルとクリスは、親子なのだ…

「お、おい、優！！」

アニマルがさらに呼び掛けた時、クリスがフッと口元を綻ばせるのをAは見た。
そしてクリスは、ミットをはめた左手とマスクを持った右手を両方とも高々と空に突き上げて…

「まだまだ試合はこれからだ！！しまっていくぞおおぉぉ！！」

グラウンド中に響き渡る大きな声で叫んだ。
滅多に出さないクリスの大声に、青道はナインを始め、ベンチや見学に来ていた主力メンバーも、ひたすら驚愕の表情を浮かべた。

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