バイト先は青心寮！【２】

7-1 二人の捕手(1) ページ5

「…にしてもさ、なんでコレかけてんの？」

「…そ、それは、その…り、涼子さんが…」

モゴモゴとそこまで言ったものの、Aはその先を言い淀んだ。
ビン底メガネをかけろと言ったのは確かに涼子なのだが、なぜかけろと言われたのかという理由が…言い辛い。
素顔だと見惚れる寮生がいるかもしれないなどと…ただの自惚れにしか思えないことを言えるわけがない。

Aが目を泳がせて言葉を探していると、御幸がビン底メガネとAを見比べながらフッと笑った。

「…涼子さん、ね。まぁいいや。とりあえず俺はスッキリしたから。…あ、さっきは騙し討ちしてごめん。」

そう言うと、御幸はビン底メガネをAに差し出した。

「あ、うん…」

確かに騙し討ちだったが…自分も御幸に隠し事があったワケで、後ろめたい気持ちから御幸だけを責める気にはなれず、Aはそれだけ言ってメガネを受け取った。
すると、御幸は代わりにAが持っていたバットを取る。

「んじゃ、これからはそのメガネの奥のAちゃんの素顔を想像しながら、スマイル注文するわ。」

「…だから、それもうやめようよ…」

「いいじゃん。俺だけの特権♪はっはっはっ。」

「…あー、御幸君だけっていうか…実は…」

と、Aがそこまで言った時。
御幸がふとAの後方へと視線を向け、この場に新たな人物がやって来た事に気付いて声をかけた。

「あ…お疲れさんです！今帰りっスか？クリス先輩。」

慌ててメガネをかけようとしていたAは、御幸の最後の言葉に動きを止める。
どうやらクリスがリハビリから帰ってきたようだが…クリスならば、このままでも問題ないだろう。
ゆっくりと、Aも後ろを振り返った。

そのクリスは、Aがメガネをかけていない状態で御幸と並んでいることに気付き、微かに眉をひそめる。

「…えーと…御幸君にも、気付かれちゃって…」

「…そうですか…」

Aの隣に立っていた御幸は、二人のその会話でクリスもAの素顔に気付いていたことを知った。

「とりあえず…何か飲みます？」

少し離れたところにある自動販売機を親指で指しながら御幸がいい、Aも元々ここに来た目的はジュースを買うことだったと思い出した。

「うん。そうしよ。私もジュース買いに来たんだった。…よし、今回はお姉さんが奢ってあげよう。」

「ははっ！ラッキ♪」

素直に笑顔を浮かべる御幸とは対照的に、相変わらずクリスは感情を表に出すことはなかった。

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