バイト先は青心寮！【２】

10-6 黒士舘戦―クリス―(2) ページ36

「だがコイツは、決して選手の道を諦めなかった。たとえチームで浮いた存在になろうとも…」

元高校球児である片岡は、クリスの気持ちを痛いほど理解していた。
一年後、選手として引退することと、マネージャーとして引退することは、天と地ほども違う。
おそらくクリスは、首を縦には振らないだろうと思いつつ、マネージャー転向の話をした。
結果、やはりクリスは選手としての道を選んだ。

その道がどんなに険しくても…
他人からどう思われても…

ベンチの中では、片岡の言葉を聞いた一、二年生が顔を見合わせていた。
片岡の隣では、クリスが両の拳を握り締めて俯いている。

「これがお前にやれる最後のチャンスだ…出るかどうかはお前が決めればいい…」

片岡は、歯を噛み締めているクリスへ静かに話しかけた。

「だがな、クリス…」

真っ直ぐに、グラウンドを見つめながら。

「アイツはマウンドでお前を待ってるぞ！」

思わず顔を上げてマウンドを見たクリスは、そこにいる沢村を見て自分の心臓がドクン、と一際大きく脈打ったのを感じた。

『俺は、クリス先輩とバッテリーが組みたいです！』

数日前、沢村に言われた言葉が甦る。

その沢村の投球は高めに外れ…三番打者に、ストレートのフォアボールを出してしまった。

「うわああぁ、無死満塁(ノーアウトまんるい)！！」

「何やってんだあの投手！！」

「まだ一球もストライク取れてねぇじゃねぇか！」

ギャラリーから悲鳴と怒声が入り交じった声が聞こえてきた。
野次は止むことはなく、共感した人たちが口々に叫び始める。

「俺達は強ェ青道を応援にきてんだ！」

「こんな試合観たくねーぞ！！」

「もう代われよ投手！！」

「かーわーれ」

「かーわーれ」

かーわーれ、というコールがグラウンドに響く中、クリスは相変わらずベンチの中で俯き、歯を噛み締めていた。

『出るかどうかはお前が決めればいい。』

監督はそう言ってくれたが…
果たして自分に、この試合に出る資格があるのだろうか？

太田部長が言った通り、自分には一年のブランクがあり、練習にもまともに参加していない。
父親の指示とはいえ、こんな中途半端な状態の自分が、一軍への昇格がかかった最後のチャンスであるこの試合に出場してもいいのだろうか？
今までの厳しい練習にひたすら耐え抜いてきた、他の部員の方が相応しいのではないか…。

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