バイト先は青心寮！【２】

10-3 黒士舘戦―沢村―(2) ページ33

再びマウンドの沢村へ視線を戻すと、四球目を投じるところだった。
スリーボール、ノーストライクから投じたその球は、またワンバンとなり…

「ボールフォア！！」

「うわあああ〜、いきなりストレートの四球(フォアボール)かよ〜！！」

先頭打者を歩かせてしまった。

「だあ〜、やっちまったァ！先頭打者へのフォアボールは最悪だって本にも書いてあったのにィ！」

マウンドで沢村も吠えている。
その内容は普段の沢村らしいもので、緊張しているというわけではないらしい。

しかし、それにしてもストライクが入らなさすぎる。
昨日今日野球を始めた投手というわけでもあるまいに…。

…と、そこまで考えた時。
まるで稲妻に打たれたかのように、Aはある仮説を思いついた。

先週、沢村はグラウンドでシャドーピッチングをしていた。
シャドーピッチングは、投球フォームを確認したり、反復を繰り返して体にフォームを固定させるための練習だ。
あの時は、ただフォームを固定させるために練習しているのだと思っていたが…

「まさか…」

ごくん、と、Aは唾を飲み込んだ。

もしも…沢村が練習していたのが、『従来の自分のフォーム』ではなく、何らかのきっかけで考えた、『新しいフォーム』だとしたら…
そして、この試合ではその『新しいフォーム』で投球しているのだとしたら…

まだ慣れていないフォームでは、コントロールが定まらないのも頷ける。

再び青道ベンチに目をやると、クリスが自分の右肩を押さえ、息を詰めたような顔で沢村を見つめていた。

これは、確実に『何か』ある。

自分の仮説が正しいかどうかはまだわからないが、色々な意味で沢村から目が離せなくなってきた。


一方グラウンドでは、二番打者が打席に入り、沢村との勝負が始まった。

一球目はアウトハイに外れ、二球目は捕手手前でワンバン。
三球目は打者の体ギリギリのインハイで、あっという間にまたしてもスリーボールとなってしまった。

「ありゃあダメだな…緊張してるなんてレベルじゃねぇぞ。」

「せっかく観にきてるのによ…いきなり試合を壊す気か？アイツ。」

ギャラリーからもそんな声が漏れる。

「うりゃああぁ！しっかりせ…」

「はい！！」

「げ…元気があってよし…！」

グラウンド内でも一塁手から沢村に大きな声が飛んだが、沢村もそれに負けないほどの声で答えていた。

10-4 黒士舘戦―沢村―(3)→←10-2 黒士舘戦―沢村―(1)

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す