バイト先は青心寮！【２】

10-2 黒士舘戦―沢村―(1) ページ32

Aが初めて見る、試合での沢村の投球。
グラウンド中の視線を集めていたであろうその初球は…打者の頭上を越え、ガシャアァン！とフェンスへ突き刺さった。

しーん、と、静まり返るグラウンド。
そして次の瞬間。

「ワハハハハ！おいおい初めから大暴投か？」

「緊張してんじゃねーぞ！一年坊が！！」

「キャッチャーミット見えてんのか！！」

ギャラリーから野次が飛ぶ。

「ひっこめオラァ！！」

「二軍のヘボ投手なんざお呼びじゃねーんだよ！」

続けて黒士舘ベンチからも大きな声が響いた。
Aも思わず額を抑えた…が、打者と捕手の様子がおかしいことに気付いて眉をひそめる。
二人とも何やら驚いたような顔をしているが…どうしたのだろうか…。

気を取り直して投げた沢村の二球目は…捕手の手前でワンバンし、二球続けてボールとなる。

「どうしたピッチャー！」

「ビビりすぎじゃねーか？オイ！」

黒士舘からの野次の中、投じた三球目は大きくアウトハイへ。
捕手が手を伸ばしても取りきれずにはじいてしまった。

「ひっこめノーコン！！」

「なめんなよオラァ！」

「ストライク取れるようになってから出てこいや！！」

黒士舘の野次に沢村も多少圧されたようだ。

「何だアイツ…あの紅白戦からどんどん悪くなってねぇか？」

「あんなにボールが荒れてたら試合になんねーぞ…」

ギャラリーからもそんな言葉が出ていて…Aは複雑な気持ちでマウンド上の沢村を見つめた。
ここまで三球連続ボール。
しかも、ギリギリ外れたというレベルではなく、暴投に近い明らかなボールだ。

しかし…

沢村は中学から投手をやっていて、青道にも『投手』としてスカウトされたはずだ。
そんな選手が、一軍昇格がかかった大事な試合で、こんな投球をするだろうか？

もうひとつ気になるのは、三球とも捕手がきちんと捕球できていないことだ。
沢村の球速は決して速くはない。
にもかかわらず、捕手が取れていない。
構えたところに投げられていないとはいえ、この試合のスタメンを任される捕手なら、ある程度の捕球技術はあるはずなのだが…

Aが青道ベンチに視線をやると、監督とクリス、そしてメガネをかけた女性＿＿＿沢村をスカウトした副部長の高島が、揃って目を見開いていた。

その様子を見て、Aは悟った。
おそらく沢村はこの試合で、ベンチも予想していなかった『何か』をしているのだ。

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