バイト先は青心寮！【２】

10-1 黒士舘戦、開幕 ページ31

翌日の、6月最初の日曜日。
相変わらずどんよりと灰色の雲が広がった空の下、青道高校のAグラウンドでは、青道二軍と黒士舘の練習試合が行われた。

クリスに観戦を頼まれるまでもなく試合を見るつもりだったAは、大勢のギャラリーの中からその様子を見守っていた。

「両チーム、整列！！」

主審のかけ声がかかり、青道と黒士舘、両チームの選手がホームベース前へ駆け出して行く。

「東東京の古豪、黒士舘相手に二軍をぶつけるとは、片岡監督も思い切ったことしますねぇ。」

ファンかOBかわからないが、ギャラリーのそんな声が聞こえてきて、Aはそちらへ顔を向けた。

「確か二軍の最後の試合なんでしょう？」

「選手の顔見てみろよ…残りの二つの生き残り枠をかけて、どいつもこいつも気合い十分って面がまえだぞ！」

Aがグラウンドの選手へ視線を戻すと、確かに青道の選手達はみな引き締まった表情をしていた。

「礼っ！」

主審の号令がかかり、しゃあすっ！！という挨拶がグラウンドに響いたあと、後攻である青道のスタメンが守備につく。

まだ誰にも踏まれていない、綺麗なマウンドに上がるのは…沢村だ。

「けど…この大事な試合の先発がアイツかよ。」

「狛代にメッタ打ちくらった奴だろ？」

「アイツで黒士舘打線抑えられんのか？」

再びそんな声が耳に入ってきて、Aは思わず拳を握り締めた。

「…頑張れ…沢村君…」

マウンド上の沢村は、捕手と何やら話しているが…その捕手は、やはりクリスではなかった。
チラ、とベンチに目をやると、監督の隣で立ったまま腕組みをしてグラウンドを見つめているクリスがいる。

どうか…クリスにも試合に出るチャンスが与えられますように…

誰にともなくAがそう祈った時。

「っしゃああ！！ガンガン打たしていくんで、あとはよろしく！！」

という沢村の大声が聞こえてきて、Aは思わず苦笑いを浮かべる。
とりあえず、沢村も気合いは入っているようだ。

そしてその直後。
主審が右手を上げた。

「プレイボール！」

こうして、青道高校二軍の選手の、一軍昇格最後のチャンスである黒士舘戦が幕を開けた。

10-2 黒士舘戦―沢村―(1)→←9-8 試合前夜(2)

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