バイト先は青心寮！【２】

6-9 確認と理由 ページ4

Aは、空を見上げた姿勢のまま固まっていた。

今、何が起きたのか…。

それは、一気に鮮明に、そして広くなった視界から察しがついた。
まさか、こんな罠が仕掛けられていたとは…。

どうしようか迷いつつも、もうどうにもならないだろうと腹を括り、Aはゆっくりと御幸へ顔を向けた。

「…やっぱり。あの時の綺麗な女の子。」

ビン底メガネを持って、ニヤッと笑いながら御幸が言ったのは、意外な言葉だった。

「…やっぱり…って？」

「Aちゃん、新学期始まる前にさ…グラウンドの近くで、俺にボール投げてくれたの覚えてない？」

御幸にそう言われて、Aは記憶の糸を辿った。
新学期が始まる前…と、いうと、やはり涼子に会いに行ったあの日のことだろう。
そういえば、あの日、涼子との話が終わってから…

「…そうだ、足元にボールが転がってきて…スポサンしてキャッチャーミットはめた子に投げた…」

呆然としながらAが独り言のように呟くと、御幸はさらにニヤリと笑った。

「そ。あの時、すげぇ綺麗な女の子が、綺麗な投げ方で、綺麗に俺の胸元へボール投げてくれたから…ビックリしてさ。印象に残っちゃったんだよね。」

「…え…じ、じゃあまさか、最初から…？」

クリスに引き続き、御幸にも最初から疑われていたのだろうか？

「いや、最初は全然わかんなくてさ。もしかして、って思ったのは、この前の関東大会の時。帰りに球場の外で会ったじゃん？あの時もボール投げてもらってさ…」

「…あぁ、そういえば…」

その時の様子を思い出しながらAが言うと、御幸はあの時と同じように軽くボールを投げる動作をしながら告げた。

「…投げ方が、一緒だったんだよね。」

「投げ方？」

「グラウンドで会った綺麗な女の子と、Aちゃんのボールの投げ方が、一緒だったんだよ。」

Aは軽く目を見張った。
まさか、ボールの投げ方で同一人物かもしれないと疑われてしまうとは…。
人の投球フォームを無意識に観察してしまうクセでもついているのだろうか。
だとしたら、もはやキャッチャーの職業病だ。

「女の子であんなにちゃんと投げれるって珍しいし、そういえばあの子とAちゃんが俺の前に現れた時期って被るし、身長も体格も同じくらいだし。それで、『もしかして』って思ったわけ。」

「…おみそれしました…」

クリスといい御幸といい、優れたキャッチャーは優れた観察眼を持っているようである。

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