9-1 シャドー ページ23
次の日。
Aは本来アルバイトに入っていない日だったが、急に必要になったものがあるので買い出しだけ頼めないか、と涼子から連絡が入った。
この日は一日みっちり講義が詰まっていたため、Aが青道高校の門を潜ったのは午後5時過ぎ。
グラウンドの前を通ると、いつも通り部員の声やバットの金属音が聞こえてくる。
何とはなしにグラウンドを眺めながら歩いていると、Aは隅の方でタオルを振っている沢村を発見した。
「右手のカベ!体のタメ!!」
と、ぶつぶつ言いながら、右手にはグローブをはめ、左手にタオルの端を持って、投球フォームの練習をしている。
いわゆる、シャドーピッチング、というものだ。
「…沢村…俺は先に上がるぞ。」
Aが沢村の近くまでやってきた時、荷物を持ったクリスがやってきて、沢村に声をかけている。
「今日は巻物Bの日だ。すべてのメニューを3セットずつやっとけよ。」
「はい!!お疲れさんです!!」
沢村は明るくクリスに答えた。
今の二人のやりとりを見ていると、バッテリーを組んだ当初、早く上がるクリスに不満を抱いた沢村が、文句を言いながらタイヤを引いていたことが嘘のようだ。
何やら感慨深い気持ちで二人を眺めていると、帰り始めたクリスが肩越しに沢村を振り返っている。
ふと、その雰囲気にある『感情』を見つけ、Aはこちらへ歩いてきたクリスに声をかけた。
「…クリス君…なんか寂しそうだね。」
すると、クリスは一瞬目を見張ったが、Aがビン底メガネ越しでもわかるほどニヤッと笑っていると、半目になりながら否定する。
「…そんなことはないですよ。」
「またまたぁ。沢村君が、いつもちょこまかワンコみたいに付いてくることが当たり前になってきて、それがないと寂しくなったんでしょ?」
「…涼子さんの親戚だけあって、あなたも中々いい性格してますよね。」
「お誉めの言葉ありがとう。」
にっこり笑って言いながら、Aは沢村へと目を向ける。
「…沢村君、シャドーピッチング始めたんだね。相変わらずなんかブツブツ言ってるけど…クリス君が教えたの?」
「いえ、俺ではありません。自分で考えて始めたのかもしれませんが…」
そう言うと、クリスも再び沢村へ顔を向ける。
「体の軸が安定してきています。今のアイツには、ちょうどいいメニューかもしれません。」
「…そっか。」
沢村を見つめるクリスの瞳に柔らかさを見つけ、Aも瞳を和ませた。
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雪星(プロフ) - れいちぇるさん» こんばんは(^-^)/私も大好きです~(≧▽≦)なので気合い入れて書いてます(^^;はい、これからも頑張りますね!暫く原作丸写し気味な試合描写が続いてしまいますが…(^^; (2015年9月27日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
れいちぇる - こんばんは。 この、クリス先輩がプレーするところ大好きです!!感動です!!!(´;∀⊂) これからも更新頑張ってください!! (2015年9月27日 0時) (レス) id: fe9e519966 (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - *モッチー*さん» *モッチー*さん、初めましてこんばんは(^-^)/…うぉぇっ!?ぜ、全部ですか!?うわー、うわー、なんか恥ずかしくてワタワタしております(^^;でも嬉しいですありがとうごさいます(≧▽≦)はい、これからも頑張りますねー(^-^)/ (2015年9月1日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
*モッチー*(プロフ) - 初めましてε(*゚∇゚*)ノ゙雪星さんの作品がどれも大好きで全部読んでいます! 春っちと初めて会話シーンみて、ついニヤニヤしてしまいました(笑)これからも頑張って下さい(´∀`*) (2015年8月31日 21時) (レス) id: 2a54e6e35a (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - まもたんさん» スッキリしていただけたようでよかったです(>_<)応援ありがとうございます(*^^*)はい、頑張りますね(^-^)/ (2015年8月24日 21時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪星 | 作成日時:2015年8月22日 12時