6-8 勝てなかった人(2) ページ3
「初めて試合したのは、俺が中一の時。キャッチャーっていうポジションが面白くて面白くて…ちょっと浮かれてた時に、その試合があったんだけど…」
御幸はそこでいったん言葉を切ると、視線を空から地面へ落とした。
「その日、さ。俺、クリス先輩に、ほんとにぜーんぶ負けたんだよ。俺のリードは読まれて打たれるし、逆に俺がバッターの時は予想できない配球で打ち取られるし、試合の流れは的確に掴んで要所要所で動いてくるし…」
世の中、凄い選手はたくさんいる、と、頭ではわかっているつもりだった。
しかし、あそこまでグゥの音も出ないほど完全に負けたと思ったのは、あの日が…クリスが初めてだった。
「なんかもう、悔しいとかいうの通り越した感じでさ。すげぇ人と会ったな、って。俺、あの人に負かされたことで、これでもっと強くなれるな、って…そう思ったんだ。」
「…御幸君…」
「…ま、それでもやっぱ勝てなかったんだけど。」
最後はAへ顔を向け、ニシシッと笑いながら御幸が言った。
まさか、御幸とクリスが中学時代から面識があったとは思わなかった。
沢村はクリス先輩についていけばいいのだ、と言い切れるのも、御幸がクリスの実力をよく知り、彼に全幅の信頼を寄せているからだろう。
「…そっか。」
地面に視線を落としてそれだけ呟いたあと、Aは顔を上げ、ニッと笑って御幸を見つめた。
「まぁ良かったんじゃない?井の中の蛙にならずにすんで。」
Aの言葉に、御幸は軽く目を見張り…再びプッと吹き出してから、盛大に笑い始めた。
面と向かって『勝てなくて良かったね』と言われたのは、初めてだった。
「はははっ。やっぱAちゃん、おもしれーわ!」
「…そ、そんなに笑うところかな…」
「…そ、そうだ、おもしれーと言えば…」
腹を抱えて笑っていた御幸が、ふと何かを思い出したように体を起こし、バットのグリップ部分をAに向けて、ヒョイと差し出す。
「Aちゃん、ちょっとこれ持ってて。」
「え?あ、うん…」
御幸が何をしようとしているのかわからなかったが、Aはとりあえず差し出されたバットを受け取った。
その、次の瞬間。
「あっ!流れ星!」
御幸がそう叫んで、Aの斜め後ろ辺りの空を指差した。
Aは思わずその方向を振り向いて…空が曇天であることを思い出し、流れ星なんて見えるわけない、と気付いた時。
御幸の手が、Aのビン底メガネをスッと引き抜いた。
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雪星(プロフ) - れいちぇるさん» こんばんは(^-^)/私も大好きです~(≧▽≦)なので気合い入れて書いてます(^^;はい、これからも頑張りますね!暫く原作丸写し気味な試合描写が続いてしまいますが…(^^; (2015年9月27日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
れいちぇる - こんばんは。 この、クリス先輩がプレーするところ大好きです!!感動です!!!(´;∀⊂) これからも更新頑張ってください!! (2015年9月27日 0時) (レス) id: fe9e519966 (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - *モッチー*さん» *モッチー*さん、初めましてこんばんは(^-^)/…うぉぇっ!?ぜ、全部ですか!?うわー、うわー、なんか恥ずかしくてワタワタしております(^^;でも嬉しいですありがとうごさいます(≧▽≦)はい、これからも頑張りますねー(^-^)/ (2015年9月1日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
*モッチー*(プロフ) - 初めましてε(*゚∇゚*)ノ゙雪星さんの作品がどれも大好きで全部読んでいます! 春っちと初めて会話シーンみて、ついニヤニヤしてしまいました(笑)これからも頑張って下さい(´∀`*) (2015年8月31日 21時) (レス) id: 2a54e6e35a (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - まもたんさん» スッキリしていただけたようでよかったです(>_<)応援ありがとうございます(*^^*)はい、頑張りますね(^-^)/ (2015年8月24日 21時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪星 | 作成日時:2015年8月22日 12時