8-8 沢村の持ち味 ページ19
…しかし。
「…バース・掛布・岡田って…」
それは、往年の阪神のクリーンアップではないか。
思わずAが苦笑いを浮かべていると、クリスが静かに沢村へ話し始めた。
「人は急激に進化などしない…。焦って結果を求めるなと何度も言っているだろ。」
「けど…それじゃあ…」
「不満そうだな…もうやめるか?」
「いえいえいえ!生まれつきこんな顔なもんで!!」
若干ブスッとしていた沢村は、クリスの言葉に無理矢理笑顔を作った。
その沢村に、クリスは淡々と話し続ける。
「柔軟な関節で球もちのいいフォーム…だが毎回微妙にリリースポイントがズレる。この不安定な投げ方が、お前のクセ球を生み出してるんだ。」
そう言うと、クリスはフイッと沢村から顔を逸らした。
「こんな投げ方で、よくもまあ投手を名乗ってるな。捕る方の身にもなれ。」
「そ…そんなにクセありますか!?俺は真っ直ぐを投げてるつもりなんですけど…」
「…だが…このクセ球こそが、お前の最大の持ち味…」
Aは軽く目を見開いた。
今、クリスが何気なく発したセリフは、沢村へ出した宿題の答えだ。
だが、何気なさすぎたのか、沢村はその言葉の意味を理解できていないらしい。
「…は?」
腑に落ちていない顔で、クリスにそう問い返した。
チラリ、と沢村に視線を向けてから、クリスは説明を続ける。
「全体重を指先に集約し放たれる、重く速い降谷の剛球。…対照的に、ほんのわずかな指先のズレがボールの様々な変化を生み出す、キレのあるお前のクセ球。」
降谷と沢村。
同学年のライバルである二人の違い。
それぞれが投げるボールの特徴。
「今まではそれで通用したかもしれんが、ミートポイントの広い金属バットを使う高校野球じゃ力で押し切られるだろう。」
十人十色の投手の持ち味。
それを活かし、引き出し、投手を輝かせるのは…女房役である、捕手の仕事だ。
「球威も変化球もない、そんなお前がこのチームで生き残る道はただ一つ…」
クリスは座ったまま沢村の目を捕らえた。
『お前の持ち味は一体何だ?』
沢村自身に考えさせるために投げ掛けた質問の答えを、静かに告げる。
「そのクセ球を磨き上げろ。」
沢村は大きく目を見開いた。
自分の持ち味と、今後の目標を明確に言葉で伝えられ、ドクン、と心臓が一際大きく脈打つのを感じる。
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雪星(プロフ) - れいちぇるさん» こんばんは(^-^)/私も大好きです~(≧▽≦)なので気合い入れて書いてます(^^;はい、これからも頑張りますね!暫く原作丸写し気味な試合描写が続いてしまいますが…(^^; (2015年9月27日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
れいちぇる - こんばんは。 この、クリス先輩がプレーするところ大好きです!!感動です!!!(´;∀⊂) これからも更新頑張ってください!! (2015年9月27日 0時) (レス) id: fe9e519966 (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - *モッチー*さん» *モッチー*さん、初めましてこんばんは(^-^)/…うぉぇっ!?ぜ、全部ですか!?うわー、うわー、なんか恥ずかしくてワタワタしております(^^;でも嬉しいですありがとうごさいます(≧▽≦)はい、これからも頑張りますねー(^-^)/ (2015年9月1日 19時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
*モッチー*(プロフ) - 初めましてε(*゚∇゚*)ノ゙雪星さんの作品がどれも大好きで全部読んでいます! 春っちと初めて会話シーンみて、ついニヤニヤしてしまいました(笑)これからも頑張って下さい(´∀`*) (2015年8月31日 21時) (レス) id: 2a54e6e35a (このIDを非表示/違反報告)
雪星(プロフ) - まもたんさん» スッキリしていただけたようでよかったです(>_<)応援ありがとうございます(*^^*)はい、頑張りますね(^-^)/ (2015年8月24日 21時) (レス) id: 1f6d2a7be2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪星 | 作成日時:2015年8月22日 12時