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*
「さあて、それじゃそろそろ最後だけど」
いつの間にか椅子に戻っていた及川さんは、見上げるこちらに向かって至極楽しそうに言った。
「もういいよね? まだ何か聞きたいことある?」
「いえ。強いて言うなら、」
真っ直ぐに、もう迷わずに。
少なからず自信があった。ただ、誰よりも大切な人がここにいないだけ、まだ不安ではあるけど。
――かえって、いない方が胸を張れるのかもしれない。
「これからあなたが、私に何を聞こうとしてるのかは、知りたいです」
「いい質問だ」
爽やかに笑ってから、すっと目を細めて、何かを懐かしむように微笑む。
それは、遥か昔に彼がまだ時の支配者でなかった時のものなのかもしれない。
「……強く、なったね」
立ち上がって真下にある私を見据える。私もまた視線を逸らさない。逸らしたら負けのような、自然界の掟・野生的な本能を感じていた。
「まあ、何度も言うようだけど……俺は君が欲しい」
戦力的な意味でね? そんなの、痛いほどわかっている。つくづくこの人は掴みどころがなくて、難しい人であるとも思っていた。
けど、今だけは何を考えているかが少しだけわかるような気がする。
「飛雄なんかにくれてやれるようなのじゃないんだよね。なんならにっくき飛雄のことは今すぐどうにかしてやりたいけど」
「…………あの人は全力で抗います」
「そんなのわかってるって」
変わらない声の調子で、すっぽりととんでもないことを言い放つ。
訂正したい。まだ、何を考えているかは私になんかわかりっこない。
「戻ってみない?」
相変わらず変化のないトーンで、うっかり聞き漏らしてしまいそうな。
「――最後に、選択権だけはあげる」
「はい」
選択権なんて、私とあなたのどちらにも存在しないくせに。
言わざるを得ないのだ。どうしようもなく。抗いようもなく。
「――嫌です」
知ってる、と、全く読めない笑顔で彼は頷いた。
*
かつて彼は、私に言っていた。
それは私の目が覚めた時でもあるし、私が成長した時でもあるし、私が頭を下げにきた時でもある。
私達は、世界のどこかで今だすれ違っているだけなのかもしれない。
すれ違いざま、風に乗って広がるマントが擦れ、お互いの存在を知った時――その時、私達は足を止めるべきなのだ。
そして静かに見つめあい、最初に、そっと手のひらを差し出すのは、一体どちらなのだろう。
*
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年9月18日 18時