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*
研磨さんに飲まされたの、苦かったなあとか、辛かったなあとか、日向さんに悪いことしたなあとか。
そういった記憶が巡る中で、ふと、思ってもいないことを口にしていた。
「でも、多分、もっと前の記憶もないんです」
目の前の人は、それで足を止めた。
「ずっとずっと昔です。今思い出せるものなんかより、ずっと昔。もしかして、って長い間思っていたんですけど」
何も音が響かない。洞窟のような場所なのに、自分の声すらもよく通らないのが不気味だった。
ふと気づいたのは、目の前の光景。いつの間にやら、正面に大きな扉が立ちはだかっていた。暗い色で、嫌な気配がぷんぷんするような扉。
「……そっか」
清水さんは、扉を仰ぐようにして僅かに首を動かしていた。
「やっぱり、選択、間違ってなかったみたいだね」
「……選択?」
「Aちゃん。あなたがそうやって自分の意思を固められるんだったら、もう大丈夫」
田中さんと西谷さんが扉の両端に向かい、「せえのっ」で扉を押す。重々しい音と一緒に、ガチャンと鍵が開いたような音。思わず耳を塞ぎたくなるような、金属が擦れる不快な音もしていた。
「……少なくとも、私はそう思ってる」
優しい声が、その時は何よりも頼もしくて、同時にそう思ってしまう自分が情けなくてしょうがなかった。
ああ、来てしまったんだな。ついに。
ごめんなさい影山さん、と心の中で謝る。今更遅いですよね。もっと早く言えってなりますよね。
でも多分、私は覚悟できていなかったんだと思います。
見た目は変わっていたし、私自身もすごく変わっていると思うけど、でもここは、昔私が目覚めた場所だった。
「……大丈夫?」
心配そうな声が聞こえてきた。平気です、と言いたいのに、声はかすれてしまって全然平気そうには聞こえない。
……弱い、なあ。
「ここで、戻るわけにはいかないじゃないですか」
「……そうだね」
嫌な空気が廊下に流れ込んでいた。まだ小さく開いただけの扉の向こうは暗闇で、何も見えない。
ただ、確かに「何か」を感じる。
「なんかさみぃな、ノヤっさん」
「ああ、ちょっとだけ緊張する」
二人の会話が後ろから聞こえる。緊張、なんて。
「…………あの時に比べたら屁でもないか」
ぽつりと呟いて顔を上げた。
扉を叩く時。その先に何が待っていたとしても、それは少なからず、はじまりだ。
さあ、行こう。
*
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年9月18日 18時