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〜
きっかけは些細なことだった。ただ、その小ささが、逆に彼らの心を煽ったのかもしれない。
「影山さん」
二等兵の称号を付けた私の声に、影山さんが振り返ることはなかった。ただ、闇雲に、弓を引いていた。
「まだ、どうにかなるんじゃないですか」
「…………」
「今からだって遅くないです。だから、」
「黙れ」
身が竦んだ。でも、と口に出せない私の肩を、誰かが叩く。
「やめとけ」
金田一さんは、そう言うと私をその部屋から出した。
「腹が立たないんですか」
憤りながら歩く金田一さんと国見さんにそう言うと、金田一さんが苦笑した。
「Aは相変わらずだよな。その揺るぎなさはすげえと思う」
「別に私のことはどうだっていいんです。あなた達に聞いてるんでしょ」
「何であんな奴のことそこまで好きかわからないんだよね」
あくび交じりで相変わらずの国見さん。……なんて呑気な時間なんだろう。
影山さんは強引で主義を曲げないところがある。その一途さが私には心地良いんだけど、どうしても合わない奴らがいるらしい。
この頃、騒ぎに紛れて戦線離脱、または自分の役割を自ら折る者がぽつぽつと出ていた。
要は「もう影山の下には居られない」ということなのだ。その考えはわからなくもないけど、
「影山さんが気づいているのかいないのかわからないんです」
噛み付けばあんな風にされる。私がどうするでもないけど、何とかしなくちゃと思わざるを得ないのだ。
それともいっそ少数精鋭の隊に再構築し直すのか。わからない。私には、わかりようがない。
「…………お二人はどうするんですか」
ぴたり、と背中が止まった。金田一さんが困っているような横で、再び、あくびにつられて国見さんの台詞が飛び出した。
「俺は別に、どうだっていい」
「ついていけねぇ。……降りる」そう言って最後に金田一さんが切り捨てたのは、岩泉さんがいなくなる三日前だった。
〜
人は、誰かに、守られ続けなければいけないのだろうか？
そんなの嫌だ。私だって守りたい。強くなりたい。隣に並んで、願わくば一歩先まで行きたいというのに。
「……記憶がないんです」
目の前を歩き続ける清水さんの背中に、ぽつり、聞いているかどうかもわからないのに話しかける。
「転んで、足をひねった後の記憶がないんです。抜け落ちたみたいに。……何をやっても戻らなくて。まあ、皆さんが伝えてくれたからいいんですけど」
*
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年9月18日 18時
