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*
じゃあ誰が？ と再び考える私の耳に。新しく、甲高い靴音が響いた。
「お待たせ」
…………え。
ばっと振り返ると、そこには。
「…………清水、さん」
「久し振り」
安らかな微笑み。ああ、何て懐かしいんだろう。
遅れて彼女の背後から顔を出した二人組に、思わず私は吹き出してしまった。
「ようA、何日かぶりだな！」
「おお、何だ元気にしてたか！」
「…………お久しぶりです」
ちょっと呆れ顔の清水さんの周りをぐるぐる回る二人は、相変わらずというか、何というか。
「田中、西谷、静かにしてて」
「「ハイッ!!」」
ビシッと直立して動かなくなる二人の間をすり抜けて、清水さんはこちらに歩み寄ってくる。
ああ、何だろう、まるで昔みたいな。
「……元気だった？」
「……この通りです」
広げて見せる薄汚れた格好に、そう、と呟く清水さん。
子供の頃に、幼い頃に、ずっと見ていた顔。どこか寂しそうで、けれどそれがどうしようもなく美しい表情。
その胸の中に、叶うなら、もう一度飛び込みたかった。
「いいの。様子見る限り、元気そうだったから」
「……やっぱり、見られてましたか」
「この国にいる限りあの人の手のひらの中だよ。私たちでも、何もしようがない」
ねえAちゃん、とその瞳が揺れる前に、私は彼女に言葉を向けた。
「私、決めたんです。自分で決めてここを出て、自分で決めてここに来たんです」
「…………」
「だから、お願いです。私を案内して貰えませんか」
あの人のところまで。
わかった、と答えが貰えるまで、たかだか数秒の間だった。でも、たった数秒の間に、確かに過去が交錯していた。
*
黒尾さんはいつの間にか姿を消していた。代わりに、先を歩く清水さん、数歩後ろを私、さらに後方で二人が歩く。
地下から場所を変えることはなかったけれど、景色はさっきと違ってどんどん変わる。気付けば太陽の光が仄かに差し込んでいて、地上かな、ということがわかった。
「……効いているね」
「何がですか？」
「ううん。私からは言えない。でもね、Aちゃん」
天井を仰ぐようにする清水さんは、少し語気の強い口調で言った。
「これから、Aちゃんが今思ってもいないようなことが起こるかもしれない。でも、心配しなくていいから」
「…………」
「だいじょうぶ」
私があなたを守るから。
どんなに私が頑張っても言えない台詞。それは、昔から、ずっとそうだった。
*
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年9月18日 18時
