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*
「……あ」
思わず声を上げたのは、川の横に影山さんがあぐらをかいて座っていたからだった。
ちょうどここからは顔が見えない角度だけれど、でも影山さんだ。そして今、彼がどんな顔をしているのかも少しだけわかる気がする。
そう思って、声をかけながら私は再び歩き出した。
「影山さーん」
「…………」
「影山さん?」
「…………ああ、Aか」
ワンテンポ遅れての返事。どんだけぼーっとしてたんですか。
ゆっくり歩み寄って隣に腰を下ろすと、影山さんは聞いてきた。
「実験やってたんじゃないのか」
「影山さんまで実験とか言う……やってましたけどもう死にそうですよ。あ、私が崖から落とされそうになったら助けてくださいね」
「は? ……よくわかんねえけど」
ふっと息を吐いた。……こういう仕草だけやってればもうちょっと理知的に見えるんですけどね。
「本当に忘れたんだな」
その言葉に、彼がどうしてそう言ったかとか、そういうことは一切わからなかった。
どうしてそんなことを言うんですか。
なんて聞けるはずがなかった。だから、ただ、黙って川のせせらぎに耳をすませることしかできない。
記憶がどんなに大事なものかは知らない。
けれど、失った中に。あの村で楽しそうにしていた人達の笑顔とか、くだらないやりとりとか、出会いとか、別れとか、そういうものが入っていたとしたら。やっぱりそれは、すごく大事なことなんじゃないか。
その時、私は、誰と、どんな風に、何の話をしていたのだろう。
それが大切なことは重々承知なのに。
そんなに大事なものを、どうして忘れてしまったんだろう。
すると、突然影山さんが私の名を呼んだ。
「A」
「……はい」
「足見せろ」
「……はい、…………はい!?」
え、あ、……え!?
*
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年9月18日 18時