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*
清水さんのお見送りもそっちのけで、私はこれを半日で終わらせる計算を必死にする。
一時間に何枚、とか休憩はどのくらい、とか効率を考えて空いている紙に書きつける。この時間で一枚でも多くやれたら、………どんなにいいだろう。
そして私はやり遂げた。苦労はもう振り返りたくないから割愛しよう。空腹に悶える前にパンにかぶりつき、軽い準備運動もして。
「……よしっ」
ばっ、と隠し持っていた未完成の地図をテーブルに広げる。
りんごにかじりつきながら、指先でルートをなぞった。未完成なれどあの部屋に行くには充分。
誰ともはち合わせずに行くために。
この数年暖めていた思いを。
いざ、出陣！
*
「っはぁ……」
ドクドク言っている心臓を落ち着かせるために、胸に手を当てる。
扉の前、ようやく辿り着いた場所。
耳をすませなくても聞こえてくる、弓の音。
ようやく……ようやく。
はやく気持ちを抑える。ゆっくりと、ゆっくりと――自分に言い聞かせて。
そして。
私は、扉を開けた。
……はず、だったのだけど。
「……何か今居た？」
「さあ……誰か、」
ギイィ、と小気味良い音を立てる扉。そして頭上からは声が聞こえる。
そんな中、私は。
「……大丈夫？」
「…………」
正面からすっ転んだところだった。
イテテ……床にぶつけたところが思いきり痛む。どうやら、私が扉を押したのと同時に、向こう側でも扉が引かれていたらしい。
勢いですっ転んだ、と。なんとも間抜けだ。
そんな私のことを二人の男の人が覗き込んでいた。ぎくしゃくした動きで身体を起こすと、ばっちり目が合う。
あへへ、と腑抜けた笑いの私を見て、二人とも少しばかり驚いた顔をしていた。
私は彼らに言う。
「すいません……急に」
「あ、いや。それより大丈夫か？」
「平気だと思います。身体は頑丈なのでっ、と！」
すとんと立ち上がって、「もう大丈夫」なことを示すと安心したような彼。もう一人は隣であくびをしていた。
城の中で、清水さん以外の人と関わることはまったくといっていいほどない。そして今、それもあるけれど、長らく思いを馳せていたこの部屋に立てていること――それ自体に緊張していた。
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年9月18日 18時
