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*
ばっと見上げると苦笑する清水さん。こら、と控えめに叱られる。
「稽古場、ここじゃないよ」
「えっと、迷っちゃってここに……」
「ここに?」
「向こうで、弓を引いているひとがいたから――」
ついつられちゃって、とは声が出なかった。
Aちゃん。そう諭すような清水さんの声に、その穏やかな声に、……何か、いけないものを感じ取ってしまったのだ。
「行っていいって言われてる場所以外に、来たら駄目だよ」
「……ごめんなさい」
「うん。そうしたら行こうか」
ぱたんと扉は閉められた。
見えなくなった姿。清水さんに連れられながらその場を後にしても、
やっぱり、その音は聞こえてくるのだった。
*
次の日から私は、清水さんに隠れてお城の見取り図を作りはじめた。
階段の場所。目立つ置物。曲がり角。見える窓や扉。
ほんの数メートルの移動距離の間に、それとなく周りを見て、景色を脳にインプットする。
もう迷うものかという気持ちと、もう一度でいいからあの扉の前に行きたいという気持ち。
それを原動力にして、こそこそと、地図作りに勤しんだ。
稽古場は、変わらず私一人のみだ。
*
「遠征……?」
二年ほどが過ぎた頃。聞き返した私に、清水さんはため息をつきながら頷いた。
「……私も、できればここから離れたくないんだけど。どうしてもって言われたから」
「はぁ……それ、何日くらいなんですか」
「そうだね……4日か5日、かな」
「…………」
清水さんが他の人と一緒に城を離れるという。もちろん戻ってくるだろうけど、
……これは、チャンスだ。
「あ、でも、私がいないからって無闇に外に出ないでね」
「わかってますよ。どうせ他のお目付役がくるんでしょう」
「うん。でもサボりそうだから、代わりに――」
ドン、と大量の書類が目の前に置かれたのは、清水さんが出発する前日。
「これは……?」と聞く声が震える。冷や汗も。清水さんはにっこり笑って、
「私がいない間のお仕事」
「……どう見ても4、5日の量では……」
「お願いね」
「…………ワカリマシタ」
地獄、スタート。
*
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年9月18日 18時