第6章 断片的喪失 01 ページ1
*
夢を見た。
夢だからか、私の意識は朦朧としていて。ぎゅっと目を瞑ってしまえば、すぐに眠りにつくことができるだろうと、そんな感覚だった。
夢の中で、人は眠れるのだろうか？
身体は強く揺さぶられていた。どこか必死さを感じるその様子を、私はぼんやりと見ることしかできなかった。
……これは。
これは、一体何だろう。
涙が、滲んだ。
*
「辛ぁ…………」
涙が滲む。ヒーヒー言いながら舌の刺激を堪える私の耳には、研磨さんと岩泉さんの会話が聞こえてきていた。
「辛味による刺激もダメ……か」
「ダメ元で衝撃の方向に行くか？」
「それしかないかも……」
「いやいやいやいや待ってください!! 私殴られるの!?」
研磨さんは顔を上げ、まさか、とため息をついた。
「さすがにそんなことできないよ」
「あ、よかった……」
「だから崖から突き落とそうかなと」
「余計死ぬわ!!」
あれっ私最年少かつ紅一点じゃなかったか……？ 扱いが酷くない？ おかしいのは私？
ぐるぐる循環に突入したところに、「おーい！」と日向さんが駆けてきた。
「青根さんが見つけた！ 辛さ10倍になる植物！ はいこれ」
「あ、ありがとう……すり潰さないと」
「ちょっと待ってください」
どうしてそんな何事もなかったような顔してるんですか。きょとんとする皆さんにぱちんと両頬を叩いて見せる。
「今の飲み物だけで超スパイシーだったんですよ!!」
「うん、そうだね」
「…………。それで！ その10倍とか何なんですか死にます私」
「へー、そんな辛かったんだ。おれちょっと飲んでみたい！」
「え、翔陽……」
「どうぞ」
日向さんが火を噴いた横で、私は根気よく研磨さん、と一人で甘い実をもしゃもしゃ食べている岩泉さんの説得にかかる。
「いいですか研磨さん、私そこまで記憶に執着ないですから」
「……でもほら、Aがもしまたどこかで記憶喪失したら困るよ」
「そ……の時はその時ですけど！ とにかくもう無理です、大事な戦力ひとり失ってもいいんですか」
「どっちかっつうと失ったのは記憶だろ」
いや岩泉さん誰もうまい事言えなんて……どさくさに紛れて彼の食べていた甘い実を
ひっつかむ。
もう、ただでさえ辛いの苦手なのにやってらんないよ、とその実を口の中に放り込んだ時。
「……あ、Aそれ……」
「へ？ ……っ、〜〜!?」
急な味覚の変化に耐えきれず、私の舌は暴れ出した。
*
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作者名：スマトラ島のラフレシア | 作成日時：2016年9月18日 18時
