【FHQ】荒野往く旅路【影山飛雄】 (ページ48)

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一瞬目を閉じて――そして、見据えられる私。

ピリピリとした空気があたりを包んでいた。

「極端に言うと、一人が急に記憶を失ったり――とかな？」

「っアンタ一体」

「おっと影山クン、俺は直接何もしてねえよ。Aの『症状』も元は良心からだしな」

良心？一体誰が、何のために。

失った記憶に無性に苛立った。どうして私の知らないことがあるの。どうして？誰か本当のことを教えて。

「……私、は」

気づけば、ひとりでに口を開いていた。

「私は何か、大切なものを失くしたんでしょうか」

相変わらず飄々としている黒尾さんは、目を細めながら話す。まるで、何もかもすべてを知っているように。

実際そうなのだろう。

「俺には答えられねぇよ。ただ――ただな、これは大王には内緒だけど、お前らにならできると思ってるよ」

ずっと彼のポジションは変わっていない。目的は、わからないままだ。

「というわけで、別に争いたくはねぇんだわ。だから今日はこれでおじゃんかな」

「待ってクロ」

「じゃーな研磨、また会おうぜ」

ばふんっ、と――。

むくむくと立つ煙に、反射で顔を覆う。十数秒後、おそるおそる開いた目にはなにもうつっていなかった。

「……逃げられた」

影山さんがぼそりと呟く。研磨さんは少し苛ついたようにローブを払っていた。埃でも被ったのかもしれない。

私の頭はぼんやりとしていた。思い出せない。でも、何だか少し、全力で走っていたような記憶だけは朧げに浮かんできた。

「……影山さん、私……」

俯いて声をかけると、急に頭を軽く叩かれた。

え。驚いて目線だけ上げるも、影山さんの表情は見えない。代わりに声がした。

「思い出せなくても大丈夫だ」

「何で……」

「俺が思い出させてやる」

「…………」

遠くから、日向さんの叫び声のようなものが聞こえてくる。ぎょっとする二人。

この旅、この道、この日。何が起こるのかわからないのに、何が起こったかさえわからなくなって、どうしたらいいのかと思ったけど。

一人じゃないってこと。それが、私を支える大きな事実。

一人じゃない。みんながいるから。

あなたがいるから。

荒野を往く旅路も、辛くなんてない。

これは、運命の物語。

To be contued…