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そもそも、この旅に目的などなかった。城を出てどうするのか、なんて考えたこともなかったから。歩けば進めると信じて歩いても、歩けば腹が減る。水が飲みたくなる。……でも、何もない。
幸運が重なって、人に拾われたとしても。……誰しも心の底では大王を恨んでいる中で、正体を隠していかなければならない。どうにもならないのに。
だから。
だから、それを変えてしまえたら。
その可能性が、今ちょっとだけ見えてきた。
「影山さん」
「……Aか」
混乱しているであろう影山さんは、それでも私の名を呼んでくれた。
それだけでもう充分な気がする。
「影山さんは、どうしたいですか?」
「……俺が?」
「はい。影山さんが、です」
ゆっくりと顔を上げる。その腕は一級品で、私がどれだけ足掻こうが追いつかない弓の名人で。
そんな彼と、心を決めた勇者が、今ここにいる。
「たぶん、追放された時から決まっていたことだと思うんですよ」
「…………」
「大王様が支配するこの地で、彼を敵に回したんですから。それに」
ふと、あたたかい皆さんの笑顔が蘇る。
もらったお水。あたたかいスープ。……影山さんがずっと食べてたお肉、あれも美味しかったですよね。
「私は昔のことをよく知りません。でも、昔は荒廃したここみたいなところも、何もない砂漠も、なかったはずなんです。それを取り戻せるなら」
最後は勇気が要ったけど。
「大王様と、戦ってもいいと思うんです」
影山さんは空を仰ぐ。そっか、とその口から小さな言葉が零れた。
おっ、と背後で日向さんが弾んだ声を出した。それに合わせて、心も弾みそうな気がする。
「……最初から、決まってたんだな」
「…………はい」
「俺はずっとあの人を倒したかった。強いあの人には無駄だろうって諦めてたんだけどな」
うっすらと笑みを浮かべる影山さんは、この人がいれば無敵なんじゃないだろうかというくらい、頼もしいような、そうでないような気がした。
「――いけそうな気がしてきた」
影山さんは立ち上がる。三人で、自然に拳を合わせた。
「やっぱこれだよな、ボス倒して英雄! かっけーじゃん!」
「すぐそうとはいかないだろうけどな」
「まあまあ、きっと大丈夫ですよ」
今、
今、パーティが動き出した。
「おーし、じゃあっ――いくぞ!!」
旅路はまだ、始まったばかり。
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作者名:スマトラ島のラフレシア | 作成日時:2016年8月1日 18時